ヴィム・ヴェンダースらしいカットや劇伴。短い時間軸のまるでロードムービー。カセットで流れる曲は特に絶妙。
ひとり暮らしの平山の毎日の生活が淡々と描かれる。雑念をそぎ落とし粛々とひとつひとつのルーティンをこなしていく日々だが、挟み込まれる抽象的なカットがわずかな不穏さを感じさせて後半へ引っ張る。
必要最低限のモノとささやかな趣味の植物。何も起こらないようでいて漣のような出来事が起こりまた鎮まっていく。少しずつ人となりがわかり始めたところに、ニコの出現で胸を掴まれてしまった。シンプルで象徴的な表現が想像を刺激するように、ちょっとしたエピソードが観る我々一人ひとりの記憶や感情を突然呼び起こす。自分なりに折り合いをつけて心の奥底にしまい込んでいるようなものを。役所広司のラストの表情はそれらをすべて包含して夜明けを迎える。
再び見返す時には、昭和の名残りと近未来が同居する今の東京をきっといろいろな思いで思い出すのだろう。
首都高と木漏れ日のカットが、ソラリスを思わせました。