故ラチェットスタンク

PERFECT DAYSの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
『完璧な日々』

 人はこれを目指し、ルーティーンのように日々をこなす。早起きして布団をたたみ、観葉植物をケアし、小銭を切って安いコーヒーを飲み、職場での道のりでカセットを再生する。洗濯物が溜まるとコインランドリーへ出向き、休日はご褒美に少し良い料理を。他者へは片手以上に近づかない距離で、介入しない程度に、しかし穏やかに眺めながら、行儀良く、紳士的に。ただ黙々と励み、粛々と生きる。

 しかしやはり外の世界はそれを許してくれない。それを「見た」あるいは「見てしまう」もっと言うならば「関わっている」以上、介入を余儀なくされ、必ず一線を超えられてしまう。結果、体力や神経をすり減らし、参ってしまう。そして必ずと言っていいほどそう言うイベントはこの機を逃すまいと立て続けに舞い込む。枚挙にいとまがない。しかしぼんやりとその段階を抜けて見る日の出には何かが見えてくるのかもしれない。

 正直女性キャラクター周りの描写については大分テンプレというか、そういう手癖を感じざるおえないが、ああいう人の周りにはああいう人たちが自然と集まるものなのかもな、とも思うのでこれはこれかなあとも。少なくとも役所広司さんの演技は素敵だった。少し誇張され過ぎにも感じる紳士像を支えているのはそういう部分だと思う。各種演出に芝居臭さ、というか嘘臭さは大いに感じられるが良くも悪くもこの映画のトンマナとして自分は受け取った。

 ヴィム・ベンダースは初めてで何なら見終わってから知ったぐらい全然知らなかったけど東京が凄く綺麗に撮れていて(オシャレトイレばっか出てくるのはどうなのとも思うものの)素敵だなあと思った。平山のバックボーンはチラリと仄めかされている感じなので断定はできないけど一応これは「恵まれた人が、選んでそういう位置にいる」話なのかなあと何となく。実際アレだけ文化的な営みが豊かで他者に興味を持って接することができると言うのは、そう言うところにあるのではないか、とも思う。-後ろめたい曲ばっかり聴いているそうだが(自罰的な側面がある?)洋楽疎いので全然わからず。-だからどうしたと言う話は特にしないが、大して恵まれてもいなくて文化にもイマイチ疎く、低賃金の非正規雇用労働に食い潰されかかって狭窄になっていく自分は、ああはなれないなと。だからこそ、美しいと思います。