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PERFECT DAYSのレントのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
我々は一本の木。

主人公平山は日に億単位の金を動かすトレーダーでもなければ、従業員数千人を抱える大企業の経営者でもない。ただの公衆トイレ清掃員である。
けして人からは尊敬されず、むしろ蔑みの目で見られる、いや、それどころか存在さえ意識されない。

人々の目にはもはや周りの風景と同化した存在であるのかもしれない。その証拠に子供を保護してくれた平山に会釈さえしない母親の姿。彼は風景の一部なのだ。それは風景になじむように作られた多種多様なデザインの公衆トイレのように。あるいは公園に当たり前のように存在する木々のように。彼は人々にとって風景の一部として同化していた。誰にも気にも留められない存在として。
しかしそれは彼にとっても居心地の良いものだった。彼の世界とそれ以外の世界とはけして交わることはない。彼にとっても周りは風景でしかないのだ。無用な干渉をすることもない心地よい距離感を保って彼は自分の世界の中で生きている。

彼は世捨て人ではない。彼にも年齢を重ねただけあって、過去があった。時にはその過去が絡みついてくる。
思わぬ姪との再会から過去との邂逅。妹は兄の今の仕事と生活を見て憐れむ。彼女にとって兄は負け組の哀れな人間にしか見えないのだろう。別の世界の人間からはそう見えても仕方がない。

思えば我々はそれぞれが一本の木なのだ。けしてそばにいる木とは交わらない。そこに立つ一本の木。それぞれが自分の世界に生きている。だからほかの木の世界はわからない。
だが、そばにいる木同士の葉が重なり合う瞬間がある。互いの葉が重なって木漏れ日を作る。その木漏れ日の形はけして同じものはない。まさに一期一会。

平山と友山は互いに自分の影を重ね合い影踏みをする。まさに二度とない一期一会の出会い。お互い同じ年齢を重ねてきた同士のまさに木漏れ日のような交わり。

人間は一人一人が一本の木。それが互いの葉を重ね合わせることで木漏れ日が生まれる。それこそが一期一会。

とても良い映画を見た満足感。映画館で見るべき作品。ただ観客のマナーの悪さにまたまた苦しめられた。隣の席の老夫婦、鑑賞中の私語、スマホの光と何度注意しようかと思ったくらい。ただ楽しそうに見てるので気分を悪くさせては気の毒と思い飲み込んだ。だが自分らが他人を犠牲にして楽しんでることくらい年齢を重ねた人間としては自覚してもらいたいもの。自分の世界しか見えてないのも困ったものではある。これでまた配信での映画鑑賞が増えそうだ。
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