どこかに在る人生。事実だけが淡々と積み重なる。ひとつひとつの言動の理由はわからない。ただそこに、人となりが、大切にしているものがみえてくる。
彼は無口かもしれないけど、機微を受け取って動く心のさまが、静かな日常に映えるように表される。
植物に心底愛おしそうに微笑む。いつもとの違いや突拍子もない行動に動揺する。嫌なことに怒りもする。何気ないやりとりがうれしい。空の様子に一喜一憂する。赤の他人でも、目が合えば、手を振られれば、その瞬間は人生の一部になる。
大人になってもたくさんのことを発見できる。味わえる。ふいの疑問を本気になって追求していい。影踏みで遊んだっていい。
劇中の「良い子だ」という台詞のこの四文字に、慈しみのような、感嘆のような、愛情のような何かが滲んで伝わってきて、今でも頭の中で響いている。良い映画を観た。