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PERFECT DAYSのGTのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
 現在日本(主にネット上で)では金がなくて社会的地位も低くおまけにモテない男性を指す「弱者男性」なる言葉が流行し、そうした男性を軽蔑する向きがある。この映画の主人公である平山も、客観的に見て明らかな「弱者男性」だ。ボロアパートに住み職業はトイレ掃除員、独身、カセットを売らないと車の給油すらできないほど金がないというお世辞にも恵まれているとは言えない状況。だが平山は、そんな暮らしに満足しているようで、人との触れ合いに微笑みを漏らし(極端に無口なため直接的に喋るシーンは少ない)、自然と戯れ写真や読書などの趣味を楽しむ。
 昭和の文豪じみた質素な生活をある種の憧憬をもって描いているのは、ひょっとしたら監督がドイツ人であり(なんでドイツの監督が日本を舞台にした映画を撮ってるのかはよく知らない。日本贔屓?)、そうした暮らしに「日本人らしさ」を感じ、異国情緒的な美しさを感じているからではないかと感じる。日本の風景の撮り方は監督の日本への愛が込められていて非常に美しい。
 尤も、そうした暮らしを無条件で賛美する向きには、確かに批判が伴うのは事実だ。実際の貧乏というのは他人が考えている以上に辛い者だろうし、この映画で描写されるほど美しいものでもないことは否めない。尤もこの映画で描写される「多くは望まない人」が、相当にリアルであることは確かだ。日本人ではない監督が、ここまで「日本」を表現できるのは素直にすごい。
 淡々としており明らかに芸術志向の映画ではあるが、実はエピソードに富んでおり、退屈することはない。ロクでもない後輩の恋愛、⚪︎×ゲームを通じた顔の知らぬ人との交流、頭のおかしいホームレス(あれがいる公園で子ども遊ばせるの嫌すぎる)、姪の訪問、行きつけのバーのママと癌で余命幾許もない元夫と、ただ単に淡々としているわけではない。こうしたエピソードは笑えるものが多く、実際映画館で俺の隣にいた人は、劇中何度も小さく笑っていたし、俺自身も基本的には笑顔で見ることができた。
 あとどうでもいいことなんだけど、閉めるとガラスが曇って中が見えなくなるトイレ初めて見た。東京の公園には、あんなシャレたトイレがあるんだなぁと、地方民の俺は思うのだった。
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