YAEPIN

PERFECT DAYSのYAEPINのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.8
日々同じように仕事に通い、それがより良いものとなるように工夫を凝らすが、一分一秒が刺激的で楽しい訳でもない。
凡庸で穏やかな日々の中には、すぐに通り過ぎてしまうようなささやかな喜びや、忘がたいほどの怒りもある。
それを「木漏れ日」で表現する日本的「あはれ」の精神に驚いた。

人によっては「パーフェクト」ではないかもしれないが、畳でカセットを聴きながら日を浴びてうたた寝するシーンに、至上の幸福が描かれているような気がした。

ともすれば疲弊する毎日が少しだけ愛おしくなるような、素晴らしい人生賛歌だった。

主人公平山と一緒に、日が昇る時間、雨の頻度、少し肌寒そうな曇り空など、日本の季節の表現も楽しむことが出来た。

低めに固定されたカメラで切り取られていくのは、スカイツリー麓の東京下町。昔ながらの家屋や銭湯、古い商店街やコインランドリーが立ち並ぶ中で、平山は70年代ロックを聴きながら暮らす。
速すぎる時代の流れから敢えて距離を取っているような暮らしぶりで、再開発が続く渋谷のトイレと奇妙な対比をなす。
朝になればゲロでまみれる公衆トイレをフォトジェニックにする前に、手を差し伸べるべき人、ものがあるのではないかと首を傾げるばかりだが、世界の人はこれをどのように見つめるのだろう。

一部、車外から撮影されたシーンでのアフレコが不自然で気になった。

追記:
あとから、この映画がTOTOとユニクロの主導した渋谷のトイレ再開発を紹介するために企画されたものだと知った。
その後、ヴィム・ヴェンダースにより平山という主人公が与えられて傑作に昇華されたが、少なくともこの映画自体はあのトイレを「良きもの」と一辺倒に描いていたのかと驚いた。てっきり平山の家とのグロテスクな対比を見せたいのかと思っていた。
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