ヴィム・ヴェンダース監督による日本の映画。
主人公である平山（役所広司）が早朝に起床してから外出するまでの行動だけで彼の日常を無駄なく自然に伝え、つなぎの背中にある「The Tokyo Toilet」の文字で完結させる冒頭５分のワンカットが特に素晴らしい。
物語は終始多くを語らず行間があり、むしろ本編が行間なのではと錯覚するほど何でもない日常をゆったりとした映像表現として表現されています。ある側面では自分の人生にしか責任を持たない殻に籠もった独居初老。その日常生活の微細な瞬間に焦点を当てた小津安二郎作品のような静謐で深い感受性を持つ作品です。
「ロストイントランスレーション」や「ブラックレイン」のような客観的な視点ではなく、あくまで内側から見える日本古来の美徳を（邦画でもハリウッド作品でもない）独創的な表現力で昇華されています。
アカデミー賞にもノミネートされ、それでいて渋谷区内の公共トイレPRを通じて外国人観光客誘致を目的としたゴリゴリに商業的な側面も兼ね備えた合理的で上質なステルスマーケティングです。
アカデミー賞受賞などしてしまったら、この作品はきっと小池百合子のモノになるでしょう。
