yuri

PERFECT DAYSのyuriのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
本当にいい映画って、映画を観る前と後とでは 世界の見え方が変わる映画だと思う。

日曜のお昼だったから、たくさんの見知らぬひとたちとこの映画を観た。
自分よりずっと年上の人が多かった。すすり泣く声、ふふっとわらう声、全てを含めた体験が、木漏れ日のように、自分にとってかけがえのない、二度とない瞬間だった。

最近、刺激を求めすぎていたのか、本気で疲れていたのか、仕事終わりに電車に乗って帰宅しているだけでイライラすることが多くて、自分で自分を追い詰めるような思考ばかりしていたんだけど、この映画を見た帰り道、私を取り巻く世界が、いつもと同じはずなのに全然違った。
あのお姉さんはメルヘンでサンドイッチをたくさん買ったんだな、あの仁王立ちで本を読んでる男の子はどこであの本を借りたのかな、なんの本なのかな、前に立っている男子大学生たちは服の系統が全く同じだし、話している時にお互いの目を直視しているから本当に仲がいいんだろうなぁ、とか。なんでもないみんなの日常を観察するのがすごく楽しくて、幸せだった。

人生に必要なことは、意外と少ないのかもしれない、とも思った。

平山もわたしも、どんなに自分のすきな道を選んでも、哀れんできたり、疑問を投げかけてくる人はいて、そのたびに生き方を見直してしまうんだと思う。最後の、全ての感情がごちゃまぜになったみたいな平山の顔が忘れられない。
だけど、彼の、自分の選んだ道を正解にしていく作業がとても誠実だったし、木漏れ日を愛でることは、彼の生き方だからこそできることだと思う。
『社会』ではなくて、『世界』に、彼は生きているんだと、だれかが言ってた。
私もそういう人になりたい、というかそういう人にしかなれないかもしれない。

あ、でも、平山のように、僧侶のように穏やかに日々を噛み締めてる人でも、ハイボール三缶と煙草を買って川沿いで黄昏てしまう日があるんだってことに、とっても安心した。

これを観た直後、loftに寄って5年日記を買った。確実に自分の人生が昨日よりもいい方向に進んでいるのを感じてる。生きることに、もっと丁寧に、それでいて貪欲になれそうだと思った。
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