規則正しく寝起きし、植物を愛で、仕事は誠実にこなし、昼休みにはカメラで写真を撮り、仕事が終われば銭湯の温かな湯船に浸かり、好きな酒を飲み、好きな本を読み、好きな音楽を聴く。
平山という男は、そうやって毎日を生きている。
それは今流行りの「丁寧な暮らし」をもどこか超越した、ミニマルで、潔くて、清廉な日々。
だけど彼は決して世捨て人ではない。
嬉しい事があれば微笑むし、腹の立つ事があればちゃんと怒る。
辛く苦い過去の記憶だってある。
それでも彼は人を憎んだりはしない。
人を好み、出会いを尊び、今を愛している。
「こんなふうに 生きていけたなら」
本当に、この一文に尽きる映画だ。
名優・役所広司の巧みさ、しなやかさ、その存在感の稀有さ。
こんなにも素晴らしい俳優が居る事は、日本の誇り以外の何物でもないと思った。
そして選び抜かれた洋楽ロックたちの燦然とした輝きよ。
それらに触れられるというだけでも、充分に観る価値のある一本だと思う。
ありがとう、ヴィム・ベンダース。