サン

PERFECT DAYSのサンのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
序盤はただ平山(役所広司)の日常が描かれているだけ。でもなんて美しい。
音楽も平山がカセットでかけてるんだと思うからまたすごくいい
着ている服は平日と休日の2パターンしかなくシンプルで、ほどよく着古されていていいなと思った。エンドロールでUNIQLOとTheoryが出てきた

中盤から特徴的な人物が登場する。タカシ(柄本時生)、スナックのママ(石川さゆり)、薪を背中につんだおっちゃん(田中泯)、お昼にベンチに座ってるお姉さん
タカシは憎めない男。「たかしー」とすり寄ってくる子供との様子をみてると憎めない。でもお金にルーズそうなところやバイトを突然辞められるのは本当に困る
そしてスナックのママの雰囲気がいい、女のいない男が週一回ここに通う。スナックにあまり良いイメージはなかったけれど、こういうスナックって悪くないじゃん
姪のニコ(中野有紗)が登場して物語が進み出す

平山が自分から人に働きかけることはほとんどない
平山は人を必要としていないし、人も平山を必要としていない
でも関わり合いがあれば豊かになる
豊かにできる範囲の関わり合いをしている

この映画について「足るを知る」という言葉をよく目にしたし、頭に浮かんだ
物欲に限らず人との関わりに関しても言えるんだろうなと思った

平山の生活は自己完結しているようで、していない
タカシがバイトを辞めた時や6年間通い続けたスナックのママがいなくなると本当に困る
孤独に近い生活だからこそ人との関わり1つ1つが光っている。平山はきっと人が好きだ
人との関わりはあくまで最小限だけれど、最小限だからこそ替えがきかなくて、だからこそ大事にしなければならないし、ある種脆い
足るを知るにはその脆さを抱えていかないといけない

ニーバーの祈りを思い出した
「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。」
自分が手を伸ばせる範囲がどこまでなのか知って、それを謙虚に出ないことってきっと難しい

平山の妹(麻生祐未)との会話は
「こんなところに住んでいるの?」から始まり「本当にトイレ掃除の仕事をしているの?」で終わる。本当に違う世界を生きているんだと思った
平山がこういった生活をしているのは過去に絶対に何かがあった
でも父との間に何があったのか語られない

ママの元夫(三浦友和)はガンを宣告され、ママに会いにくる
「謝罪をしたかったわけでもない、感謝を伝えたかったわけでもない、ただ伝えたかった」
ただ伝えたい。そしてそれを悲しんでくれる。離婚をしていても、こんな人がいるというということを思うと素敵で胸が苦しくなった
そんな男と川沿いで影踏みをする平山は素敵だ

最後の涙は何を思っていたんだろう
この映画は考える余白がある
木を育てている気持ち、フィルムカメラの写真を撮りためている気持ちも気になる。薪を背中につんだおっちゃん、お昼にベンチに座ってるお姉さんには何があったんだろうか
また何年か経ってから見ると分かるものがあるだろうか

平山がニコやアオイヤマダにデレてたのかわいかった
ニコにカメラをプレゼントする平山、いい
「この世界は、ほんとはたくさんの世界がある。つながっているようにみえても、つながっていない世界がある。」
「こんどはこんど、いまはいま」
ニコに言った言葉

映画の最後に木漏れ日についての説明がある
素敵な解釈だと思った。ヴィム・ヴェンダース監督
木漏れ日は光と影の織りなす一瞬の現象

又吉さんがYoutubeでこの映画について話しているのを見た
解釈がすごく面白い
居酒屋のチョイスも平山のような男が忙しない改札前の外に出てるテーブルで飲んでいるというのが面白いし
自動販売機で買うコーヒーもブラックではなくてカフェオレというのが面白い
6畳一間の自分の好きなものにだけ囲まれた場所で生活できる幸せ
古本を一冊だけ100円で買って読んでいくという豊かさ

ロストイントランスレーションで見た東京とは全く印象が違う。
本当に海外の監督が撮ったのか。ヴィム・ヴェンダース監督。日本的なものというものを撮るということにとどまらず、より一歩踏み込んで日本人にも気づかない日本(特に美しい面)を見ている気がして、旅行先や日常でもこういう見方をしたいと思った

ヴィム・ヴェンダース監督は小津安二郎を師と呼び、『PERFECT DAYS』を彼の魂に導かれた作品とコメントしている
POPEYEのインタビューで New jeansのプロデューサーミン・ヒジンも小津安二郎監督のファンだと言っていたな
また見てみよう

この映画はミニマルな幸せを提示してくれてる
幸せってこういうのでいいんだよ。こういうので。
これでパーフェクトなんだよ。そう思わせてくれる
将来は平山のように歳をとりたい 。1人でささやかな幸せを感じれる、積み重ねた趣味を持っている、その意味で。

その上で、人を幸せにする楽しみや人と幸せを分かち合う楽しみも忘れてはいけないと思う
平山は平山でパーフェクトであって理想ではない
けれど、確かに、パーフェクトなんだ
サン

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