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PERFECT DAYSのカポERRORのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
【ヴィム・ヴェンダースという名の日本人へ】

残念なことに、この作品の良さを人に上手く説明出来るほど、私は語彙力や表現力に長けていない。

よって、劇場鑑賞の一部始終と私の思いのたけをありのまま伝えることにする。

✤✤✤

本作鑑賞中124分間、私はずっと絶え間なく笑顔だった。

判で押したような平山の日々のルーティンにも、それに彼自身が心地良さを感じている様子にも、不思議なエンパシーを感じた。

そんな変わらぬ日々だからこそ、期せずして起こる僅かな変化やささやかな事件に対して、ことのほかドギマギしたり喜んだりする平山の表情・仕草に愛おしささえ覚えた。

なんと慎ましくも豊かな営みであろうか。
彼は一日一日を尊び慈しんでいた。

ラストシーン。
朝日を浴びながら車を走らせる平山の表情こそが、それを如実に物語っている。
そう思えた瞬間、私は平山と同じように笑顔のまま涙が込み上げてきた。

気付いてしまったのだ。

平山の営み。
それは、姿形は違えども、半世紀以上ただただ愚直に歩んできた私の凡庸な人生そのものだった。
全く気付きもしなかった。
私が歩んできた一日一日にも、必ず朝日は昇っていたのだ。

そうして、劇場を出た私の目に飛び込んできた街の灯りと星空は、今まで見たことがないほどに美しく輝いて見えた。

なんだ、私の人生、まんざら捨てたものでもないじゃないか。

…振り返ると…
…歩んできた日々の有り様も…
…モノクロ写真に映る木漏れ日のように…
…見方ひとつで愛おしいPERFECT DAYS…

✤✤✤

こんな感情を抱かせた作品には過去出会ったことがない。

まさしく、スコアでは言い表せない、唯一無二の特別な作品である。

目新しいトイレの造形と、一杯飲み屋や電気湯のレトロな佇まいの同居は、ある種の日本的なちぐはぐ感をも見事に映し出していた。
日本的と言えば他にも…。
義理人情。
勤勉。
影踏み。
目と目が合った時の気恥しい素振り。
自己犠牲を厭わぬおもてなし。
それらを、ドイツ人のヴィム・ヴェンダースが描出し得たことに、驚きを禁じ得ない。

本作は、彼から今を生きる日本人への、至高の贈り物である。
もはや、惜しみない感謝の言葉しか出てこない。

あなたのお陰で、またありふれた愛おしい日々を歩いていける。

ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。

間違いなく、あなたは我々以上に誇らしい生粋の日本人。

追伸)
役所広司は神。
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