りょー

PERFECT DAYSのりょーのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.1
なぜ不要なように感じるカットが差し込まれているのに、飽きが来ず、エッセンシャルワーカーの泥臭さを感じさせず、淡々と日々を謳歌する様が、あんなにもスタイリッシュで温かいのか……。シーンは地続きだけれど、音楽や照明やカットやロケ地やらの妙なのか。フィルム全体で、日々、そのモノを表現しているようで……もう勘弁してくれよ。演出力の鬼ですよ、鬼。

でも、何であんなにも温かさと狂気とが混沌としていたのか。見飽きなかったのか。それは、役所さん演じる彼の「世界」(自分にとっての幸せ、完璧な毎日)を通じて、別の人の「世界」との重なりと衝突を観ていたからなのかな。

トイレ掃除、盆栽、コーヒー、レコード、フィルムカメラ、銭湯、晩酌、友人、家族。

耳が好きな青年。ガールフレンドに首っ丈な男。トイレの丸バツゲーム。レコードや渋い自分の感性を持った女性。黒人女性と曇りガラスのトイレ。運転手付きの車に乗る妹。自分に興味を示す姪っ子。

「あの人は住む世界が違う」のは、そりゃそうだ。だって他人ですもの!違う文化圏ですもの!

でも、完全に入り混じらない、完璧に隔離された「世界」じゃないですよ〜ってメッセージが込められていると思っていて。

自分にとっては悪しでも、誰かにとっては良しかもしれなくて、自分にとっては良しでも誰かにとっては悪しな事もある。そんな形でしか関わり合えない瞬間だって、日々の中では往々にしてありましょうよ。

だから、心通じて笑顔になる瞬間もあれば、衝突して泣きたくなる瞬間も多い。
通じているようで、全く通じ合ってない瞬間も多い。その逆も然り。

考えてみればそういうもんだ、人生。

昨日。下北沢の素敵なバーのイケメンスタッフが、「こんな所で働いていて何の意味があるの?転職しなよ!」と言われた挙句、「着てるシャツ、交換しようぜ」と言われたと、酔っ払いからの苦言を嘆いていた。
その人の幸せ観を、自分の物差しで定義するなよ。
でも、ソレが地球という共同体の宿命なのです。誰だって意識下・無意識下に、己がPERFECT DAYSがある。

自分にとっては完璧じゃなくても、誰かにとっての完璧であったり。自分にとっての完璧でも、誰かにとっての完璧だとは限らない。

最後の表情アップと木漏れ日のラストは、重なり合うそれぞれの葉と葉。優しさと摩擦、温かさと衝突、愛憎、笑顔と涙、光と影……包括的なカットでした。

個人の中に樹立されたPERFECT DAYS。ソレは万人にとってのPERFECTじゃない。だから辛い時もある。でもハッピーな事もある。それがこの世界ですよと。

そんなニュアンスで、自分と周りの人を再確認させてくれる映画だった気がしてます。

たぶんだけど、この映画にどこかしらで見入った、或いは共感した人は、自分の幸せと対人関係との両立に戸惑いながらも、基本的にはポジティブな思想を持ってる人たちなんじゃないかな。

であるなら、この高評価は、なんだかとても前向きな数値な気がします。

とは言え、あのペースで白BOSSと晩酌は糖尿病コース確定なんで、皆さま、ご自愛くださいませ。
りょー

りょー