Yuichi

PERFECT DAYSのYuichiのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画を作ってくれたことに感謝しかない。美しい映画。

2016年にジャームッシュがパターソンをとり、そして、2023年にヴェンダースがパーフェクトデイズをとった。
この二つは自分にとってとても大事な作品。

どちらの作品も日々を単調な繰り返しの仕事をしながら生きている男の日常を切り取っている。大きな事件もなく、映画的な盛り上がりもない。それでも、そこには確かに生きることの美しさが、世界への豊かな眼差しが、込められている。

パターソンでは主人公は詩人で、パートナーのために詩を書き続ける。どこに出すのでもなく、出版をするのでもなく、商業主義に回収されない生き方を自ら選んでいる。
それに対して,パーフェクトデイズの主人公、平山は、トイレ掃除の仕事をしている。いわゆる、エッセンシャルワーカーであり、現代社会で顧みられない、地位の低い仕事である。

しかし、その仕事に向かう平山は誠実でまっすぐだ。じぶんなりのルールがあるように几帳面に磨き、オリジナル器具を使い、リズムよく徹底的に行なっている。同僚の若者にはやりすぎだと言われるほどに。

私たちはこういったエッセンシャルワーカーの仕事の上で日々の生活を行なっている。そして、それを気づかずにいる。インフラの整備や、交通網、トイレや下水、そういった当たり前に用意されている先進国に住み、それを誰かによって作られていることを想像する力を失ってしまっている。

いうなれば、東京という輝かしい資本主義の世界で、平山は影の存在でもある。いるのに気づかれない、見向きもされない存在。

その一方で、平山は、自分からその影の世界を選び取ったことも物語後半でわかる。姪っ子が家出をしてきて2人で時間を過ごした夜、妹が運転手つきの高級車で迎えに来る。手には鎌倉紅谷のお菓子。平山が昔好きだったという。そして、父親に会いに行ってあげて、もう認知症で昔みたいではないから、と。

おそらく、神奈川、横浜か鎌倉の企業の長男として、平山は父親に厳しく育てられた。そして、その道を信じて歩んできたが、何かのきっかけにドロップアウトすることを選んだ。
お金や地位を争い奪い合うことに嫌気がさしたのでは、とは個人的な感情を挟みすぎかもしれない。とにかく、その光眩い世界から逃げ出し、東京のスカイツリーの近くで、一人暮らしを始める。トイレ清掃員として。

光から影へ。
その繰り返しの日々に誇りを持っている。

その思いは、三浦友和との会話でも明らかになる。
影が重なるとどうなるかわからないままだ、と呟く三浦に対して、試してみましょうと平山は提案する。
そして、自分たちの影を重ねてみると、変わらないという三浦に対して、平山はいや濃くなってる、と強く主張する。

変わらないなんて嫌じゃないですか、という平山は、影のような生活を繰り返し、ルーティンを守りながらも、その生活がどこかで意味を生むことを、信じている。

誰かにとっての意味に。
それは、トイレの片隅で名前もなしに交わされるマルバツゲームのように、大きな意味はないかもしれないが、それでも少しづつ繰り返すことで、どこかにたどり着けることに。

だからこそ、平山はフィルムカメラを愛している。光と影が,逆転する世界を。
Yuichi

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