アキラナウェイ

PERFECT DAYSのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.8
監督、ヴィム・ヴェンダース
      ×
   主演、役所広司

この組み合わせなら観ない訳にもいかない。カンヌでは主演の役所広司さんが日本人俳優としては19年ぶり2人目(1人目は「誰も知らない」の柳楽優弥)の最優秀男優賞を受賞。

東京、渋谷。公衆トイレの清掃員として働く平山(役所広司)という男の日常。

朝靄の中、老女が箒で通りを掃く音で平山は目を覚ます。薄い布団を手際良く畳み、霧吹きで植物に水をやり、狭い洗面所で髭を整える。玄関先でフィルムカメラと車の鍵と小銭を携えて、古いアパートのすぐ目の前にある自販機で缶コーヒーを買って車に乗り込む。

そして公衆トイレを巡り、丹念に丁寧に掃除をする平山。

仕事が終われば、地下の小さな居酒屋で野球のナイター中継を映し出すテレビに目をやりながら酒とつまみで軽く一杯。そして、また薄い布団の上で眠くなるまで読書する。

何年の月日の中で
何回この作業を繰り返してきたのだろう。

柄本時生やアオイヤマダ、石川さゆりや三浦友和らが登場するが、物語に大きな起伏をもたらす程の事はない。

ただ静かに
ただ淡々と
日常が過ぎていく。

台詞を多く語る訳ではないのに、その表情から平山がこの日常に不満を抱いている訳ではない事がわかる。優しさや人間味が滲み出る、役所広司の役者としての真骨頂がここにある。

70年代の音楽をカセットテープで。

楽曲のセンスがとにかく良い。
「The House of the Rising Sun」は、他の映画でも起用されていた事があって、以前から好きだったし、「Feelig Good」はまさに、この日常を平山が愛していると確信させる歌詞に思わず唸ってしまう。

朝日に照らされた顔をくしゃくしゃと泣き笑いのような表情を浮かべる、最後の長回しが印象的。

その視点がヴィム・ヴェンダースだからなのだろうか。外から日本を覗いてみると、何て事のない些末な全ての事がこんなにも愛おしく、美しく、輝いて見える。

平山が日課としている、"木漏れ日"のショットをカメラで捕らえる事。そして、木漏れ日の定義を英語で説明する文章が映し出されて、終幕を迎えるこの作品。

途中睡魔に襲われかけたものの、日本と日本の公衆トイレの美しさを再認識させてくれる作品。