ねつき

PERFECT DAYSのねつきのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
「木漏れ日 - ただその瞬間一度だけのもの」

「完璧な日々」は心の豊かさ。ヒトモノカネ、その全てに縛られることなく、自分の価値観を自分で決めて生きること。

比較、劣等感、優越感、、、から解放された時、初めて幸福に生きることができる、というメッセージだと思う。若いころ、ずっと苦しかった。可愛い子、賢い子、おしゃれな子を見て「自分と比べてあの子はこう」って思う。項目で切り取ったら、そりゃ自分より優れたものを持つ人は必ずいる。自分の弱みとその子の強みを比較して、苦しくなる思春期。「可愛くて賢くておしゃれ、って思われたい」っていう呪いで、他人から見える自分を作ろうとしていた青年時代。苦しかったな。

自分の価値観を自分で決めること、それが豊かな人生を送ることだと、この映画を見る少し前から、私は気づくことができている。大人になったのだ。平山は「トイレの清掃員」っていう一見世間体の悪そうな職業を通じて、それをわかりやすく教えてくれている、だけ。「お金がなくてしあわせ、時間があればしあわせ、それこそがパーフェクトデイズ」それは平山の価値観。平山と同じ生活をしても、同じ幸福感は得られない。私は私の、しあわせの基準を決めていい。

たぶん。ひと昔前の私なら、平山の生活が羨ましくて仕方なかったと思う。古本屋に通い、フィルムカメラに再燃したかもしれない。でも不思議なことに、平山の生活に対して羨ましいな、とは思わなかった。
それは結論、今の私が自分の価値観を確立することができたってことなんだと思う。

木漏れ日があんなにも美しいものだと、私は知ってる。人と繋がることが楽しいと知ってる。自分を喜ばせる時間の使い方を知ってる。日本に生まれて、四季を1番楽しむ手段として毎週山に登っている。人におしゃれとか、センスがいいと思われようとしなくても、自分の選んだものに価値があると知っている。
まだまだ完璧とは言えないけれど、完璧に近づいていると思える。道なかばな私自身のパーフェクトデイズ。

平山は、この世界から降りてるわけだよね。「お母さんとは住む世界が違う」って言ってたけど、どんなにそう言い聞かせたって、どうしたって物理的に、世界は繋がってるんだから。24時間耳を塞いでおくことなんてできないんだから、だからたまに入ってくる「平山さんって結婚してなくて寂しくないんですか?」「本当にトイレの清掃員やってるの?」って言葉で、簡単に「降りた世界」に引き戻される。よ。だからニコがいなくなったあと、1人で泣くんでしょ?
平山の生活を、私は完璧と思わない。私は私の、パーフェクトデイズを探す。それは逃げとか諦めとか一切なしの、私が自分の価値観で見つける世界だ。

平山じゃなくたって、木漏れ日が美しいことには気づくことができるんだよ。
ねつき

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