つん

PERFECT DAYSのつんのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3
傑作。
やっと観ました。

公開からだいぶ経ちましたが平山さんが住む墨田区ではまだ2つの劇場で上映しています。ありがたいことです。

劇中に映るあんな外壁の色の家、本当にいっぱいあるんですよ。
スカイツリーから少し先行けばまだまだあんな光景です。
知ってる所ばっかり、なんてもんじゃない。個人情報漏洩を恐れずに言えば、わたしの家の前を通ってるじゃないの。
1番興奮したのは、今、観ているこの映画館の前を通った時🚗💨
一緒に観ていた20人くらいのみんな、気付いてる?!走ってるのそこだよ。と思いながら観ました。
そして次にエックス橋行ったら「今度は今度!今は今!」って絶対やっちゃう。

ラストナイト・イン・ソーホーの時も感じたのですが、わたしは「生活している時に自分なら不具合を感じそうな部屋に住んでいる人」を見るのが好きみたいです。

そして、平山さんが何年も続けてきたであろう日々のルーティンを見るのもまた楽しかったです。
物を干す時、しまう時、彼は必ず、「ビシッ」「パンッ」「ザスッ」というように動作の最後に無駄に音を立てて決めたい感じが出ていて、きっちりした性分が伺えました。
もし、パソコンをやったらエンターキーめっちゃ強く叩きそう。

本を読みながら寝落ちしちゃいそうになるとああなるよね!
わたしもなります😆


物語が始まった時は、その生活ぶりや職業から「素晴らしき世界」の時のように心が苦しくなるのかなと構えてしまいましたが、そう思う自分の中に差別意識があるんだなと気付かされましたし、平山さんは決して根暗ではなく、無口だけど人嫌いでもなく、自分を卑下もしていないし小さな幸せに向ける笑顔が可愛くてとてもポジティブな存在でした。
そこには、わたしたちが憧れる「清廉」があり、偉くなくとも正しく生きる美しい姿がありました。
いつも空を、太陽を見上げていて、自身も植物のような彼は粛々と生き、宝くじなど買うこともないんだろうな。
彼の隙間からこぼれる木漏れ日に癒されました。

ステレオタイプでは、孤独で寂しく惨めな主人公に描かれそうな設定ですが、見ていくうちに途中からはヴィレヴァン男子の気ままな晩年といった感じに思えてきて、昔、北野武さんが言っていたことを思い出しました。
「日本人から見て、貧しくて大変そうな国の子供たちだって、毎日嬉しいこともあるだろう。その生活が普通なんだから、自分たちは不幸だと思ってないだろうし、今日は好きな人と目が合った、とかそんな楽しみがあるはずだ。勝手に可哀想がってはいけない」みたいなことを言っていて、とても納得したのですが、そういうのと同じ感覚でした。
大きな事件が起きるわけでなくても感情は動くものね。


映像的には穏やかな優しい光が、逆に目にぼんやりと映り、終始ピントが合わない感覚がありました。
この映画は劇場じゃないとここまでじっくり向き合わなかったなと思いました。
1時間くらい経ったところで、これくらいで終わっていいんじゃない?と感じましたが、そこからの1時間がまた面白かったです。
1回目はフルで観て、次からはどこから観ても、どこで観終わっても良い映画だと思います。
精神安定剤のように、更年期や反抗期に心を落ち着かせるために平山さんのおでかけの準備だけを見てもよさそう。

ただ、とっても優しい気持ちになっても劇場を出たらすぐ意地悪なことを思ってしまう自分とか、例えば直後に聞いた「ハライチのターン」のハライチの性格がすごく悪く感じたりとか、現実との落差に絶望感も強くなったりしました。

役所さんの素晴らしい演技に対する三浦友和さん、2人に痺れました。影踏みシーンではニコニコしちゃった。タバコのとこは「お前さんもむせるんかーい!」ってツッコミながら見ました。
それに、セリフなしの長井短さんがいい顔すぎて笑ってしまった。
柄本時生さんはご本人全然そんなタイプじゃなくて10段階で1くらいしか共通点なさそうな役をあんなにハマり役で演じてたのがすごいと思いました。
ニコいい子だったなー。
石川さゆりバージョンの朝日のあたる家、なかなかよかったな。内田裕也バージョンより好き。
買うたびに一言くれる古本屋、通いたい。
研ナオコさん出てたよね?

そうそう、映画初っ端からアニマルズの「朝日のあたる家」がかかり、大好きな曲なのでいいねぇ〜と心掴まれ、まさかのパティ・スミスのホーセス出てきて白目。
そして、ルー・リードだもんね。
この映画、パティ・スミス観たかなー。見て欲しいな。
海外でも公開されてるのかな。
いろんな国の人に見てほしいな。
それで、日本が良いなとか面白いなとか感じてくれたら自分のことのように嬉しく思うだろうな。
わたしも自分の住んでる街が少し好きになりました。
地元映画館では全てが終わり明かりがつくまで誰1人席を立たず。きっとみんな👏🏻したかったんじゃないかな。
ヴィム・ヴェンダース監督ありがとう。
つん

つん