櫻子の勝手にシネマ

PERFECT DAYSの櫻子の勝手にシネマのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
東京でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は淡々とかつ丁寧に日々のルーティンをこなしていた。
朝起きて車で出掛け、車内で好きな音楽を聴きながら現場に行き、仕事を終えると飲み屋で一杯飲み、銭湯へ寄ってから家に帰り、読書をしてから眠りにつく。
単調だが充実した每日だった。
そんなある日、平山が家に帰ると姪のニコ(中野有紗)が階段で彼を待っていた。
どうやら彼女は家出したようだった…

『パリ、テキサス』『ミリオンダラー・ホテル』『アメリカ/家族のいる風景』『パレルモ・シューティング』などでお馴染みのヴィム・ヴェンダース監督作品。
東京を舞台とする日独合作映画である。

東京のトイレが舞台で、日本でしか見られない清潔でユニークで綺麗な公衆トイレありきの企画とも言える。
もともときっかけとなったのは渋谷区内17か所の公共トイレを刷新するプロジェクト『The Tokyo Toilet』だったそうで、それがそのまま主人公が勤務する清掃会社の名前になっている。

余談だが、日本に遊びに来た友人(イギリス、アメリカ、オーストラリア、フランス)は、皆一様に口を揃えて「なんで日本の公衆トイレはこんなに綺麗なの?誰が掃除してるの?」と興味しんしんだった。
日本人の私から見たら「そう?汚いけど?」というイマイチなトイレでさえ彼らは綺麗だと絶賛していた(笑)

そういう意味では、あれだけカッコいいトイレを見せるだけでも外国人からしたらポイント高そうだ。
トイレを通じて日本文化を切り取るアイデアも素晴らしい。

劇中、これといった出来事や事件などは起きない。
特に派手な見どころも山場もない。
けれど、なんとなく興味をそそられるように構成されている。

音楽のセンスも抜群で選曲も良い。
全てカセットテープというのも昭和っぽくていい。
特に挿入歌で流れたルー・リードの『Perfect Days』が心に染みた。

駅地下にある飲み屋、地元の人が通う銭湯やスナック、狭い場所にびっしり本が並べられた古本屋など、日本人からしたら当たり前のような風景でも、外国人目線で面白く撮っていたところも良かった。

平山という男は“善い人”なのだろう。
寡黙な中にも自分の信念やルールがあり決して曲げない。
出会う人の良い所を見つけ出し、心の中で讃える。
木々と陽の光が織りなす木漏れ日に感動し日々の暮らしに感謝の気持ちを持って生きている。
その他愛もない1日こそが彼にとって完璧な日であり、その連続が“Perfect Days”なのだろう。

本作は誰もが何気ない日常から小さな幸せを感じとれることを教えてくれる…そんな映画だった。

追記… 
カンヌで19年振りの日本人男優賞を獲った最高の“自然体”の演技は素晴らしいの一言。
役所広司は本当に平山だった。