近本光司

Jeunesse(原題)の近本光司のレビュー・感想・評価

Jeunesse(原題)(2023年製作の映画)
3.5
「MADE IN CHINA」の向こう側にある生活。親もとを離れて河北省の直隷という土地に出稼ぎにやってくる10代半ばから20代半ばの若者たち(しかし「直隷」とは…)。毎年30万人を超える季節労働者たちは、18,000軒以上がひしめき合う小さな裁縫工房で、日夜ミシンで子供服を縫いつづける。あの工房の払いはどうだ、この商品の単価は安いと、だれもが金の話ばかりを口にしているが、その工房の内外でときたま青春としか呼びようのない煌めきに満ちた一幕が繰り広げられる。音割れした安いスピーカーから中国のヒットチャートが流れるうす汚れた工房。若者たちが箱詰めされている共同生活の団地は年季が入り、彼らにはつねに結婚や子供といった現実が付きまとう。はじめはなんという場所だろうと、その映像に見入って感動を憶えるのだが、ミシンの音がえんえんと鳴りつづける三時間半は、そうしたわたしたちの安易なエキゾチズムを打ち壊すだけの長さがある。あの土地に暮らす彼らにとって、それは三時間半よりずっと長くもあり、そして同時に一瞬でしかないのだろうなあ。途中退出者が続出したのもわかるのだが、最後まで観ると、片田舎の実家の壁にののどかな湖畔にパラソルを立ててミッキーたちがお茶してるタペストリーが掛かっているという、ぞっとするショットのご褒美が。あんな醜悪なものがあんな場所に。それにしてもすごい世界だ。