こなつ

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命のこなつのレビュー・感想・評価

3.8
スピルバーグ監督が書籍の原作権を押さえていたにもかかわらず、映像化を断念したと言われているイタリア史上最大級の波紋を呼んだ衝撃の史実「エドガルド モルターラ誘拐事件」をイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督が映画化した本作。

イタリア統一に向かった流れが急速に加速化していた19世紀末、揺らぎつつある権力を強化しようとしていたローマカトリック教会と教皇ピウス9世が企てた衝撃の事件の全貌。権力にしがみつこうとする人々の傲慢なやり方によって、1人の少年とその家族が辿った数奇な運命に胸が苦しくなりながら鑑賞。壮絶な真実の物語だった。

1858年、イタリア北部の都市ボローニャに暮らすユダヤ人一家モルターラ家の7歳の息子エドガルドが、教皇領の警察によって連れ去られる。理由は、「何者かに洗礼を受けた」という情報によるものだった。息子の返還を求めてモルターラ夫妻はあらゆる手を尽くすが、奔走虚しくそのままカトリック教徒としてエドガルドは育てられていく。

ユダヤ人社会や新聞社を巻き込んで訴えても、睨まれたくない、潰されたくないというユダヤ人協会の弱さが、強い権力の前に立ち向かう術を失う。やがてイタリア統一運動の高まりで、ボローニャも教皇の統治下でなくなる日が来て、急速に政治的な局面を迎えていくのだが、、、

7歳の少年を誘拐し、信仰を植え付け、人格をコントロールするのは決して難しい事ではない。神の名のもとに正当化し横暴な権力を振りかざし、無垢な少年を利用して親の思いも顧みない教会のやり方は、あまりにも残酷だった。

宗教によって戦争になっている地域が今もなお存在しているのだから、歴史はやはり繰り返されている。この誘拐事件については今回初めて知ったが、民族とか宗教とかいう問題は本当に根深いものだとあらためて感じた。

少年期のエドガルド役の新星エネア・サラは、オーディションで抜擢されたらしい。その無垢で純粋な演技がいつまでも心に残った。
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