乙郎さん

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命の乙郎さんのレビュー・感想・評価

3.0
1858年にボローニャで起きた誘拐事件と、その背後に潜む宗教的対立を描いた史劇。マルコ・ベロッキオ監督。
 私、今回デヴィッド・I・カーツァー著『エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一』(早川書房)という本を読んでから観たんですね。初日初回に。多分、これくらいのテンションで挑んだ人あまりいないんじゃないかと。で、正直なところ、これだけ、自分から前のめりになってこのくらいの楽しみだったら、ひょっとして何も知らずに見たら相当きつかったんじゃないか、というのが正直なところです。
 何というか、ベロッキオ監督の過去作に比べてもあまり画が強くない。屋内はまだ良いが、明るい場面だとチープさが際立つし、ロケとか、チネチッタですということを隠している気がしなくて、19世紀ローマに意識を飛ばしてくれない。
 個人的に、歴史映画を観るときに欲しいのって、歴史的にある大きな出来事が起こったと言うのを画一つで見せてくれることで、この映画を観る少し前にタル・ベーラ監督の『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(‘00)を観ていたから尚のことそれを求めていたのかもしれない。この映画でそれに相当するのは「壁」が壊れる場面だろうけど、あそこ、あまりにもCGがチープすぎやしなかった?この誘拐事件もイタリア統一運動の機運を上げることとなったということも省略されていることもあり。
 あと、実際の史実だとこの事件の背景にはユダヤ教徒への差別があって、モモロ・モルターラはその後殺人の冤罪を着せられそうになり、弁護士が背景にユダヤ人差別を喝破する場面があったりする。ただ、この作品にはそこはオミットされているどころか、モモロがエドガルドを窓から落とそうとする、史実とは異なる場面が入っている。統一運動中に兄弟と再会するところや、死ぬ間際の母親を改宗するところも史実と異なる。すべてが史実と同じでなくてはいけないわけではないが、史実を曲げてまで得られた面白さがあるかというと疑問。ユダヤ教に関しては扱いが難しいところがあるし、近年のガザでの行為は容認できないと考えているけれども、少し気になる。これらをオミットしたところで、この事件で教皇が悪くないと考える人はいないだろうけど。
 良かったところとしては、帽子を使った演出と、エドガルドが初めてキリスト教の儀式を観るときのその異教感。裁判と洗礼のカットバックは流石。あと、この作家目力の強い女性好きだなーとは思った。
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