茅野

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命の茅野のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

1851年〜のイタリアでの実話が題材と、モティーフが好みド真ん中を突いてきていたので、楽しみにしていた。そして、その期待よりも更によかった……。
最初は「2時間越え!? 長!」と思ったけど、展開はスピーディで、時間を気にすることなく終わってしまった。とてもよかった。

誘拐事件の話のみかと思ったら、エドガルド・モルターラ君の半生を追う。
幼少期のほっぺたモチモチ金髪美少年が、薄っすら髭の生えたイケメン君になってしまったが、説明不要なほど似てて凄い。俳優さんリアル兄弟かと思ったくらい(笑)。

ユダヤ教徒の家庭で育った少年が、乳幼児期に秘密裏に洗礼を受けていたことが発覚し、ローマ教皇に誘拐される(!)。
これが実話というのだから物凄い。
宗教による分断は、今でも全く解決されない問題だし、パレスチナ情勢が悪化している今、色々思うところも(パレスチナは主に領土問題だけど)。

なんの不自由もなかった仲良し家族から、小さい子どもが宗教のみを理由に誘拐されるのは大問題だけど、あの寄宿学校には天真爛漫に楽しく生活している子も多くおり、「異教徒の家庭にいるキリスト教徒は教皇が引き取る」というその規則が救いになった子もいたのかもしれない。それともそれも一種の洗脳なんだろうか。

教育の大切さがよくわかる。
エドガルド君はキリスト教徒として幸せになれたのかな、それならそれで……と思ったのに、反教皇の暴動に加わったり、家族との溝に悩んでいたりと、やはり一枚岩ではいかない。
彼はガニュメーデースの如く幼い頃に誘拐され、本人は悪くないし、寧ろその環境に適応しようと健気なのにな……! の思いを強めた。
夢の中とはいえ、キリスト像の手足に刺さった杭を抜いてあげようとするくらい良い子なのに。

寄宿学校での生活は『トム・ブラウンの学校生活』など、パブリックスクールやギムナジウムものっぽい。
夭折したシモーネ君の袖にお母さんが入れたのは、ユダヤ教の印なのかな。それもなかなかエグい。
それがフラグとなって、今度はエドガルド君が逆のことを自身のお母さんにやろうとする。

英題は『kidnapped』らしい。直球すぎる(笑)。

実父は最初エドガルド君を窓から投げようとするのでビックリするけど、あれは息子が誘拐されると思って完全に動転していただけで、基本的にはめちゃめちゃ良いお父さん。
教皇は家父長パラハラ父ではあるけど(教皇だしな)、確かにこれは憎めないかもしれん……という愛嬌もあって、教皇の地位に上り詰めるだけのことはある……と思わされてしまう。
地味に枢機卿がイケオジ。

ローマ・カトリックは今でもあのような服装なので、和物などと違い、コスプレ感なくみんな似合っていた。そういうところ凄いと思う。

1850-70年代のイタリア史を知っていると、数倍楽しめると思う。この頃のイタリアは激動で、「全国統一」を成し遂げようとしていた。
このことから、モルターラ事件は、政治的にも利用されてしまう。
わたしもこの事件については初めて知ったので、後でどこまでが事実なのか調べたいな。

ボローニャ、ローマはもうそれだけで街並みが綺麗だな。
教会もめちゃくちゃ綺麗だ。行きたくなっちゃう。

何故か作中BGMとエンディングテーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏。確かにあれ、緊迫感あるよなあ。合ってたと思う。

CG の箇所はわかりやすく CG だったのが少し勿体なかった。

結局、エドガルド君は完全にキリスト教を受容し、長い生涯を宣教して過ごしたらしい。19世紀人にして、約90歳の長寿。
ということで、一応ハッピーエンド……(?)なのもいい。

時間を感じさせないクオリティ。とてもよかった。同志近代オタクは絶対観た方がいい。
茅野

茅野