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アッシャー家の末裔のTnTのレビュー・感想・評価

アッシャー家の末裔(1928年製作の映画)
3.7
ダークファンタジーぽい雰囲気のサイレント映画。Wikipediaで調べたら脚本にまさかのルイス・ブニュエルの名前が!最近みたブニュエル監督の「自由の幻想」にも棺桶から電話がかかってくる描写があって、今作にも似た描写が…というか棺桶が。

編集が凝っていて、多重露光、カメラの激しい移動、特にスローモーションが輝いていた。スローは物語に詩的な感覚を与える。かなりたたみかける描写もあり、ラストはそのたたみかけによって力業で乗り切った雰囲気。内容はまとまってないが、気にするなという終わり方。

エドガー・アラン・ポー原作の作品。ポーらしいゴシックでダークな世界観。装飾やらやたらと凝られていた。妻を描くと現実の妻の生気が抜かれ、絵は生き生きとしてしまう。昔からあるイメージか現実という問題は流石ポーである。そのテーマを忠実に再現したのも今作。絵の中の妻の姿は時折まばたきをする。美しさをとどめたいという人間の欲求を真摯にあらわしている。映画ではこのテーマを深く掘り下げるまではいかないのが少し残念。よくあるホラーでとどまってしまった感。

しかし男の狂気と女の霊というファンタジーには心惹かれた。どことなくティム・バートンの映画にも出てきそうだった。妻が白いベールを身に纏い、風に吹かれる様は「コープス・ブライド」そのものにしかみえなかった。悪い夢のようでずっと浸っていたい世界観。

元来、人間はその姿を留めたい欲求がある。アンドレバザンの言葉を借りるなら、ミイラとはまさにその姿をとどめようとした結果である。そして、肖像画や写真、そして映画がうまれる。この映画自体もまたイメージをとどめたい欲求によりできあがっているのだ。映画もそこに原点があると思うと面白い。
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