木蘭

ポトフ 美食家と料理人の木蘭のレビュー・感想・評価

ポトフ 美食家と料理人(2023年製作の映画)
4.6
 料理を振る舞う事は友愛を交わす事、食べる事はSEXという事を良く分かったフランスらしい大人のメルヘン。

 ポトフという邦題も、予告編もミスリード。
 ユーラシア皇太子(字幕はそうだけど、アジア皇太子って言ってるよね?)に極上ポトフを食わせる話では無いよ。

 最初の30分はほぼ料理シーンという位、2時間強の上映中、いつも誰かが食べて飲んで、調理をしているというフェティッシュな料理映画。
 美しい映像は勿論だが、調理の音が際立つような音響で描かれる美食家たちの調理と食事のシーンはリッチで、時に可笑しくもありながら、料理は科学であると同時に芸術で、性愛的なモノ・・・つまり人生だね・・・という思いがヒシヒシと伝わってくる。

 主人公が梨のシロップ漬を手で転がすシーンは露骨で笑ってしまったけど、最後にそれをモチーフの姿と重ね併せるシーンは美しかった。
 フランスの名女優は、年を重ねたら重ねたなりの性的な美しさを表現出来るので凄いね。
 時代は19世紀末だけど、最後のセリフに象徴されるように、立ち振る舞いはモダンでクールなヒロインが魅力的。流石はジュリエット・ビノシュ。

 ハッキリ言ってストーリーらしいストーリーはほとんど無いのだけど、これが不思議と、観終わった後に胸がジンと熱くなる・・・豊かな料理のような作品だった。
 どんなに悲しくても美味しい料理を食べれば心に灯がともるし、受け継いだレシピを作り工夫を凝らしていく事は、過去の人と対話し未来へつながる事、いうなれば家族になっていく事・・・というラストは、とても可愛らしくて、とても感動的だった。

 これフランス料理だからいいけど、和食割烹の板前と食通たちの話だったら、「オムレツはフォークよりスプーンで食べる方が美味いとか・・・料理には順番があって・・・とか、いちいち五月蠅ぇ!」って腹が立つか、もっとストイックな話になりそうなのに、ロマンティックな話になるところは流石は"おふらんす"。
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