みぞみぞ

落下の解剖学のみぞみぞのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

今までに見た法廷もので、最も本質的で真に迫っていた。

災害としか思えないような不幸な出来事が起こった時、そこに当然正しさなんて存在しないわけだけども、今後の人生や社会を成立させるために、無理やりにでも正しさを決定しなければいけなくなる。
さらに今の社会は資本主義的に回っているから、そこに各々の個人的欲求や意思も絡んできて、法廷は泥沼になる。誰のための、何のための法廷なのか、誰も分からなくなる。


真実が自殺であれ他殺であれ、それは夫婦間の人間関係が大きな事故を起こした結果としか言いようがなく、
交通事故に遭って視覚(などの身体的機能)が奪われてしまうように、
こういった人間関係の事故は容赦なく心を抉りとっていく。
人間は抵抗を試みるが、決して抗えない。じっくり時間をかけて、失わざるを得ないものを失っていく。
本作は事件の真実を追求することを目的としたミステリー的要素に力点は置かれておらず、大きな事故とそれに伴う喪失を抱えてしまった親子がその心的災害にどのように対峙し、決断していくのかという点に肝があり、そこが本当に素晴らしかった。何より濃密な人間ドラマでした。

最後のダニエルの証言と、検察がその証言を極めて主観的ですと跳ね除けようとするがその指摘が空虚にしか聞こえないあのシーン。一生ものでした。
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