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落下の解剖学のせっのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2

雪山の家で一人の男が死亡し、殺人容疑をかけられた妻と唯一現場にいた目の見えない息子ダニエルが裁判に挑む話。

目撃者もいなければ、証拠もなく、自殺か殺人か事故かはっきり断定できない状況で、基本的に全員少ない手がかりから考察するしかない裁判。そもそも事故とは判断がつかないとされる問題の血痕も驚くほど少量だし(あんだけ少量なら普通に事故パターンあると思うんだけど)、断片的な妻の記憶や夫婦のある一場面を切り取っただけであろう記録から、検察弁護士証人被告人ですら全員考察するしかない。

証拠は無いのに当事者でない裁判の発言者達は雄弁に自分の考察を鼻高々に述べる。裁判所なのに昼のワイドショーや考察系YouTubeを見てる気分になった。でも確かに、そういう考察を聞いてるのって楽しいし、話すのも楽しい。検察官もはや自分の考察楽しんでるように見えたもんな。

そんな快楽を否定するようにこの映画はなんとも穏やかに収束していく。判決も、結局ある人物の考察が決定打となる。でもその考察は覚悟と責任が伴う考察。もう誰にもこの家族のことを面白おかしく考察することは許されない、事件の真相は明らかにならないけど、この考察を聞いてもまだあれこれ考察したい気分にはならないから。

ドラマの考察と違って現実のことがらに対する考えを言う時は本来このぐらいの覚悟と責任をもって言うか、当事者以外が好き勝手言うことじゃないんだよなぁ。
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