藍紺

落下の解剖学の藍紺のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.1
夫の転落死から端を発し、そこから夫婦の日常が法廷で暴かれていく。ベストセラー作家の妻、自身も作家で成功したいが家事や育児に多く時間を割く夫、そして事故で視覚障がいになった11歳の息子。三人三様、それぞれが見ていた家族の肖像がどんどんブレていく。見えていたものが不確実だと知った時、人は何を信じていけばよいのだろうか。

主演のザンドラ・ヒュラーが抜群。当て書きとのことだから役にピッタリなのは言うまでもないが、いわゆる女性らしさ(この表現は嫌いだが)とはおよそかけ離れた人物像を好演。法廷でも普通に振る舞っているだけなのだが、非常にふてぶてしく映る。それが一層「彼女が夫を殺したのではないか」「あの女ならやりそう」と人々に思わせるのに十分すぎる演技だった。
自分もそうなのだけど、人は印象に左右される生き物だと痛感する。“真相”が曖昧な時、何を“真実”だと判断すればいいのだろうか。

この事件の顛末も曖昧なまま終わるが、一番グッときたのは終盤息子が法廷で吐露した決意表明のような発言だった。虚をつかれた様な裁判官の顔が映るが、私も同じ気持ちになった。結局のところ、自分で心を決めるしかない。証拠を探してもどうしても分からない場合は自分で考える、そして自分で決断する、そのことに責任を持つ。そういう選択をしたってことなんだろうなと想像した。それが正しいとか正しくないとかは置いておいて、そうやって生きていくと決断したのだろう。

犬好きとしてはボーダーコリーのスヌープ君がとても可愛かったー。彼のある場面での名演技にはビックリ!何ヶ月も訓練してあの熱演をやり遂げたとのこと。なんて賢いのー!!!モフモフしたくなりましたよ。それと、ホットロイヤーこと、スワン・アルローが素敵すぎて目が釘付け。「この人めちゃくちゃカッコ良くない?魅力がえげつなさ過ぎ」と鑑賞していたのだが、SNSでみんなも大騒ぎしてたのでやっぱりなと、大いに安心しました(?)。
藍紺

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