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落下の解剖学のyoshikiのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2

ジェスティーヌ・トリエ監督・アラチュール・アラリ夫婦が2度とやりたくないという狂気の共同脚本で紡ぐミステリーの皮を被った社会派映画。

サンドラ・フュラーの演技とスワンアルローの色気、ボーダーコリーのメッシくんの超越した演技は必見。

人里離れた雪山に佇む一軒の山荘。
男の転落死、容疑者は妻、物的証拠はなく唯一の証人は視覚障害のある息子。
これだけ煽って謎解きが主題ではないということにまず面食らう。
妻を被告人に据えた裁判が進むにつれて表面化する子供を持つ夫婦の争い、身体的、精神的な転落を主題に据えて、その複雑に入り組んだ関係性を紐解いていく。そういう意味での解剖学。言葉にすると少し恥ずかしい。

各所に散りばめられたミスリードを誘う演出がミステリー?作品としての魅力を担保しつつ、裁判の流れでの綿密に練られた掛け合いは穴がなく裁判映画として見ても魅力的な作品です。
被告人の母国語ではないフランス語での答弁の心許なさが独特の緊張を生み、この映画の観客にだけ後だしで開示される夫婦のパーソナルな情報が緊張感を持続させる。
大人の制止を振り切って裁判を傍聴し続ける息子と同じタイミングでこの夫婦が抱えていた秘密を明かされていく訳だが、物証が無い中証人の数だけある主観的真実の中から何を汲み取り信じるのか。最後まで、見終わったあとも答えられないままだ。
ミステリーの側面から見るとその謎については考えれば考えるほど深みに落ちていく。そもそも想定解は設定されているのか?と思うくらい。
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