このレビューはネタバレを含みます
夫の転落死の容疑者として起訴された女性とその息子が裁判で家族の過去と真実に向き合う
かなり重厚で深刻かつ重要なテーマを扱っているように思えた
映画の大半は裁判のシーンで、
妻を容疑者としているのだから当然過去に起きた夫婦のいざこざについて検察側は容赦なく突いてくる
被疑者側は夫の自殺を証明できれば勝ちなわけだけど、肝心の動機を証明できる話は全て家族の小さな秘密の中にある
前日の夫婦の喧嘩の録音のシーンが再生されるシーンが衝撃的だった
会話を聞くだけで成功している小説家とそうでない小説家のレベルの差が明らかになる
二人は全く別の階層におり互いに別の方向へ手を伸ばしているような感覚がした
弁護士は「彼を追い詰めたのは喧嘩ではなく、自身の状況に対する絶望」と言うけど
その絶望的状況を言語化してぶつけてトドメを指したという事実がこれで明らかになったわけだ、容赦ない
というのも、ただの喧嘩で済んだこと、ただの言葉で済んだこと、ただの生活で済んだことが裁判が進むにつれて記憶の最前線に引っ張り出され、その時の相手の気持ちを考えさせられるというのはかなり苦しい
どれだけ考えてもその人はもういないという事実を何度も叩きつけられる
死人に口なしとはよく言ったもので、元をたどれば事実から捻じ曲げられた推測や想像がこの裁判を引き起こしているけど、
そこに息子・ダニエルの推測が終止符を打つという綺麗だがなんとも言えないフィニッシュ
事情を何も知らず事件当時も家にいなかった息子と愛犬でさえ、家族内で起こった問題には少なからず接していた描写は鮮やかだなと思った
弁護士も冷静な質問も裁判官の情に訴える言葉も全部優秀なのに、負け戦のような裁判を引き受けたのが恋慕なの、説得力が桁違い
人間とその関係の中に含まれる隅々まで描かれていた
いい映画だったぁ……
