ゆう

落下の解剖学のゆうのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
稀にみる骨太な法廷劇である。実に素晴らしかった。

裁判所で繰り広げられる、まさしく「解剖学」。
象徴的なのは、予告にもあるように、殺したかどうかは重要ではない、ということである。
一般にも広く知られている法諺に「疑わしきは被告人の利益に」がある。
疑わしい状態まで持っていければ、被告人の勝利なのである(日本での実運用は怪しいところであるが)。
観客には、結局のところ、妻が夫を殺したかどうか明らかにされない。
息子の証言がどこまで事実に即しているかもわからない。
終盤、母子ともども互いに会うのが怖かった、というセリフまで出て、さらに揺るがされる。
でも、裁判では「重要ではない」のである。

映画そのものの出来栄えも素晴らしい。
ドキュメンタリーのようなカメラワークもさることながら、事実以外は証言者の言葉で語られる等、細かいところにも抜かりがない。

日本国内でも裁判員制度が定着して久しい。
裁判に携わることの難しさを体験できる貴重な映画である。
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