いのうえ

落下の解剖学のいのうえのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.7
公開初日、日比谷シャンテの初回にて鑑賞。初回にも関わらずかなり埋まっていました。
脚本がよくできていると思い、アカデミー脚本賞の本命なのも頷けるなと思いました。

主役のサンドラヒュラーももちろんですが、個人的には息子と飼い犬スヌープの演技が凄まじかった。(パンフを読んでいたらスヌープはカンヌでパルムドッグ賞を受賞しているらしい)

法廷劇と聞いていたので退屈してしまわないか少しだけ心配してましたが、脚本の力強さのおかげで最後まで緊張感を保ってみることができました。

この話は、結局サミュエルの死因をはっきりさせない作りになっている。サンドラが殺したのか、事故だったのか、自殺だったのか。
遺体が発見され、弁護士より自殺では?という話が出た時、彼は息子が近くにいるのに自殺なんかしないと擁護しておりそうだよなと思った。(これと同時に、この主張をするサンドラもある種自分に不利になる証言をしていることになるので本心からの心だったんだろうなと思われるし、したがってサンドラが殺したわけではない=自殺というのが最も確からしい線だろうか)

個人的には、自殺というのもあんまり腑に落ちない。
サンドラが最初に言うように、わざわざ息子が見えるような形で自殺するだろうか?という疑問と、あの方法で自殺することの確実性に疑問もある。

自殺か他殺かをはっきりさせないことによって、仮に自殺だった場合のサミュエルを追い詰めてしまった後悔などについてサンドラが思いを馳せる描写がなかったのは少しだけ残念。裁判が終わってなんだかホッとした感じでいるけど・・・。
判決が下りた後のディナーではしゃぎきれない感じとか、弁護士といい感じになりかけてやめるとことか、彼女なりにサミュエルへの愛が頭によぎっていることの現れなんだろうか。

 
「客観的な事実よりも主観的な真実を選び取る話」というパンフに掲載されている斎藤環さんの言葉がこの作品をよく表しているな、と思いました。