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落下の解剖学のMasterYuのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.9
ベストセラー作家のサンドラは、教師の夫サミュエル、事故による視覚障害を持つ11歳の息子ダニエルと愛犬スヌープと、フランスの人里離れた山荘で暮らしていた。
ある日、夫サミュエルが山荘で転落死する。事故死なのか殺人なのか?
サンドラはやがて起訴され法廷の場へ。
そして息子のダニエルも証言台に立つことになるのだが・・・。

ジュスティーヌ・トリエ監督作品。
夫の死は事故死なのか、自殺なのか、それとも妻による殺人なのか?
そういう点だけ見ればミステリ要素はあるものの、舞台の大半は法廷でのシーンなので、リーガル・サスペンスにカテゴライズされる内容でした。

妻サンドラが夫サミュエルを殺したのかどうなのか?というところは、当然気になるところではありますが、例えば確たる証拠もないのに起訴する検察側もどうなのよと思わされるし、凶器など物証もないので、知られたくもない性的嗜好をバラされたり、書いた小説の内容で無理くり人間性を決めつけられたり、サミュエルが録音していたという痴話喧嘩の内容を晒されたりと、裁判の残虐性を示しているところや、息子のダニエルの思考の変化を感じ取れる部分の方が興味深い。
会話が聴こえたという曖昧な証言などからどちらかと言えば父親寄りだと推測されるダニエルが、薬のくだりである決意をする流れは、サンドラが犯人かどうかという話よりもグッと惹き寄せられる感じ。

またサンドラを演じたザンドラ・ヒュラーが巧い。
冷酷な悪女であるのか、ダニエルの視覚障害の原因となった事故から逃避してしまった弱さを持つ人物なのか、彼女の一挙手一投足に、間違いなく観ている側は翻弄されるでしょう。

様々な「落下」を内含したストーリーを振り返させるエンディングの余韻が秀逸。
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