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落下の解剖学のsnatchのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.4
裁判官が「休廷」と言うと、やっと私もペットボトルに手をのばす…喉がカラカラ…
になるほどこの話しの渦中に置かれた

その時、画面に現れる人間の気持ちに、その人間に対峙している人間の気持ちにスライドする、引き寄せる力が強烈な映画だと思う

心って最強であり最恐だなと心底思いました
何にでも変容してゆく心
以下、中身に触れています






愛しあい信頼しあい共に暮らしていきたいと昂まる2人の若い心
これほどまでに容赦なく相手を傷つける剥き出しの心
自分も思い返すと堂々と批判ができない後ろめたさにも炙られる😱
弱々しく、へし折れてしまう心
真白から色んな色が垂れてきて強く濃くなっていく少年の心
自分もこの心というものを持っている

2人は、夫と妻や男と女や父親と母親をという肩書きを外したサンドラという人間とサミュエルという人間。理想な形を2人に夢見れば同じ物書き同士としてやっていけそうだった
しかし、サンドラは貪欲に小説家として邁進し成功した道からは勿論絶対に降りない
サミュエルにも同じ夢はあるが、目の前の現実である家事、お金の問題、家の改装、そして幼少期の交通事故により障がいを負った息子ダニエルへのケアと教育問題…終わらない山積みの毎日、自分の時間はない
普通の人はサミュエルと似通っているだろう

絶対に意思の揺るがない強靭なサンドラを前に、サミュエルは弱りきった心の塊りに化していく
唯一、ダニエルには自分の気持ちを吐露して

そしてこれを全て傍聴席で耳から聴いているダニエル。このダニエルの姿に、自分も相当えぐられるが、ダニエルの口から出るもう傷ついているから、全てを聞くという意志…それを大人に止める力はない。鍵盤を叩くダニエル、僕、ここにいる
母がすぐ息子に会いに行かないところに真実が隠れているのだろうか

全出演者が圧巻。特にサンドラを演じた女優さん、表現者としてずば抜けている

また自分がこの事件を知ったら、マスコミと同じでSNSをググっているのだろうなあとも思う
フランスの裁判では、被告はあの位置にいるのか、見つめる者と見られている者の緊張感がある
全ての真相は見えないが、苦悩するダニエルが教えてもらったそれでも心を決めるしかないという裁判制度も考えさせられた

落下の解剖学
落下して解剖されたのは何か
愛の裏表
深かったです
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