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落下の解剖学のOMUのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.5
フランスの片田舎に暮らす人気作家である主人公。家で起きた唐突な夫の死。
死因が事故とは断定できず、主人公が殺した可能性があると検察は彼女を起訴し裁判が始まるが…。

非常に評価が難しい笑
裁判が進む中で状況や主人公の見え方が二転三転し、どのような真実がそこにあったのかは、最後まで断定はできない作り。
ミステリ的なスッキリを求める方にはオススメできないかなぁと思います。

ただなんか面白いなと思ったのは、
主人公が中盤で言う、「ほんの断片からは家族のすべてを把握できない」と言う主張に対して、裁判の中で溢れていた自殺への偏見、作家の傲慢さへの偏見、それから目が見えなくなった子供が可哀想など…人が生きていく上で、断片でしか見れない場合に持ちがちなありとあらゆる偏見がたくさん出てきていたこと。
そして、この映画の主人公がもし男で、夫が妻だった場合、もう少し「よくあるはなし」として消費されてしまいそうなつくりであることなど…。

なんかこの辺があまりに自然に組み込まれているためかなり気付きにくくもあるのですが、いわゆるいまの世間一般の軽率な見方に対する批判が、散文的におそらくわざと入れ込んである。
そのため、つねに自分の持つ偏見や、知識と対峙し続ける必要があった。

終盤で出てきたメディアの人が放つ「真実はどうだってよく、面白い方をとる」も世間がよく陥りがちな罠で。
この映画を見ながら、ほんとはこうだったら面白かったんじゃないか、
と、思ってしまった自分の見方自体が、そう言う真実を歪める消費に繋がってたりもするのかな、など、

徒労に満ちた主人公の常に禁制的な態度を見て、考えさせられもしました。

でもなんだろ、散文詩的な部分か、禁欲的な部分なのか、そのあたりが逆にこの映画でないと得られないもの、みたいなものを少し見えにくくしちゃってるようにも?
んー、わからないですが!
でも見て良かったなと思いました。
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