ヤスマサ

落下の解剖学のヤスマサのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.5
フランスの人里離れた山荘で起きた夫の転落死をめぐり、妻に殺人の容疑がかかったことで、法廷で真相を明らかにしていくヒューマン・ミステリー。

夫の不審な死と状況証拠から妻サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が起訴させる。
物証と呼べるものは無く、法廷で語られるのは不確かなものだけだ。
出てくる証拠にも決め手を欠くが、検事は容疑者の動機を巧みな語り口で捲し立て、法廷にいる者は勿論、映画を観ている者をも疑心暗鬼にさせていく。
ここに出てくるのは「不確実」なものだけなのだ。
それは、息子の弱視、息子が弾く拙いピアノ、エンドロールで流れるピアノの不協和音が入る曲といったところでも表されているだろう。
夫婦の職業が、虚構を紡げる小説家というのも注目すべき点かも知れない。
夫婦や家族は勿論、社会は曖昧であやふやなことで満ちている。
ヴァンサン・レンツィ弁護士の台詞「重要なのは…、君がどう思われるかだ」は、その不確実を悟っているかのような言葉であり、この映画のキーポイントだ。
それでも自分なりの白黒を付けなくてはならないダニエルの希望的憶測で語る最後の証言は、解剖を終えた体の如く、どこか痛々しい。
最後までモヤモヤが残る作品だが、個人的には愛犬ボーダーコリーのスヌープに救われた作品。
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