このレビューはネタバレを含みます
フランスの雪山の山荘で男性が転落死。真っ先にその妻でベストセラー作家のドイツ人妻サンドラが疑われ裁判となる。唯一の目撃者は二人の11歳の息子で弱視のダニエル。さすがはカンヌのパルムドール作品とあって、白黒はっきりする作品ではない。
むしろ事件の真相に迫ることは主眼になく、こうした事件を題材に裁判の形式を借りることで、普遍的な夫婦の不和の一形態を白日の下に晒し、現代の働く女性が向き合っている子供との関係性をも含んだ社会的抑圧を描いているように感じられた。
例えば、夫婦喧嘩の場面（音声からの想像で見せられる映像であり、実際に起きたことではないという見せ方がまず上手い）。家のことをやっていない/子供の教育について考えていないということが揉め事の火種となっているが、「夫婦喧嘩の原因」で統計取ったら恐らくこれがトップだろう（勝手な憶測）。今作では妻も旦那もどちらも作家という同業者であるという要素も加わり、喧嘩は泥沼だ。※そもそも、十分に家庭のことをやっている/やっていないのボーダーラインが夫婦揃っていればここまでの喧嘩にはならないとも思う。
加えて、妻と旦那の主張スタンス＆社会的地位が従来社会において期待された性的役割とは逆転しているため、裁判においてジェンダーバイアスがサンドラに襲いかかるという構造になっているのも上手い(あの検事は本当に酷い)。
その上で、息子のダニエルは父親の自殺 or 母親が犯人かを迫られ、それはそれで彼には酷な決断とはなるわけだが、このラストの展開においてサンドラに目を向ければ、社会的抑圧によって引き起こされる感情/内なる声の中でも最もタチの悪い、働く女性たちの潜在的恐怖（＝私は”良き”母なのか？）が極端な状況において表現、問題提起されているとも感じた。
