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落下の解剖学のToShのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
これは事故か、自殺か、殺人かー。

雪山の山荘で、男が転落死した。男の妻に容疑がかかり、唯一の証人は視覚障害のある11歳の息子。

法廷サスペンスの体裁をした、とある夫婦の物語。カメラワークとして演者の深層心理に迫っていく感じがとてもリアリティがあり、緊迫感のある演出がドキュメンタリー映画を見ているかのような感覚になる。

本作で本年度映画賞レース主演女優賞の最有力候補となっているザンドラ・ヒュラー。人気作家としての知的なポーカーフェイスの下で、底なしの冷酷さと自我を爆発させる圧巻の演技で、観客を一気に疑心暗鬼の渦へと引きずりこむ。

息子のダニエル役のミロ・マシャド・グラネールと、彼の愛犬スヌープに扮し"パルムドッグ賞"を受賞したボーダーコリーのメッシの、演技を超越した存在感が物語のカギを握る。

事件の真相を追っていくうちに、観る者は想像もしなかった人間の深淵に、登場人物たちと共に〈落ちて〉いく。そこでは、あらゆる価値観が覆され、愛と信頼の意味さえ〈解剖〉されていく。そして最後に突き付けられるのは、──。
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