さなD

落下の解剖学のさなDのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

○全体
今回のテーマは【真実が分からない状況で自分が人にどう見えるのか】に感じた。
最初は単に可哀想な母親だと思っていたのに裁判で口論の録音を聞いた瞬間、180度印象が変わる演出ほんとに震えました。今生きている自分の人生も、見えている世界が全体のほんの一部なんだと思わせられるいい映画でした。
主人公の疑いが100%晴れてない、あくまで裁判に勝ったというだけで真実が何なのか分からないのが恐ろしい。
ラストシーンも何も変哲もなく含みも持たせない、ただ母親が寝ているカットで、どうとでも取れる終わりだった。このカットを入れることによって、自分の主観というものが強調されるなと思う。あくまでこの1シーンは素材で中立的なものだけどこれをどう取るかは観ている人次第で、まさに自分が陪審員の席に立たされたかのような感覚で終わった。
口論の録音を聞く限り、母親は家のことを何もせず小説ばかり書いている→ダニエルくんと二人で暮らすとなった時に果たして幸せなのだろうか…と邪推してしまう。


裁判が進むにつれ人の行動に違和感が出てくるけど、人の行動って全部が全部、合理的ではないわなとも思う。それを削ぎに削ぎ落として事実とするのかなと思ったり
人の記憶ってかなり曖昧だし、裁判で聞いた話に合わせてバイアスかけてしまったり裁判て本当に難しいなと思う。
夫がかけてる歌詞が女性蔑視の曲、あれも意味有りげに聞こえるし、単純に好きなジャンルの音楽性かもしれんし…

あと裁判でインタビューや録音など望まない醜態を晒したり、裁判に勝ったらなんかもっと見返りがあると思ってたら虚しさだけだし、裁判後もマスコミや野次馬に中傷など2次被害負わされるの予想されたりで、裁判に勝ったあとのリアルってあまり良いことないのかなて思わされました。

○よかったセリフ
冒頭のインタビューの現実と小説家を曖昧にしたいってセリフ、後半の裁判で伏線になっててめちゃめちゃ良かった。

ニュースで夫が自殺するより小説家が殺したほうが面白いだろ?って言うセリフ、世間の無関心さが端的に表れてて良いセリフだと思った。

裁判の途中でのダニエルくんのセリフが良かった。【確実な証拠がないのであれば、裁判と同じように状況から推察するしかない】
裁判関係のお姉さん?とダニエルくんとの会話で、【裁判では判断に迷う2つの事があっても必ず1つに決めなければならない】というセリフも良かった。ダニエルくんの決断したフリ?という問いかけも心に刺さりました。
ヴァンサンが何度も【事実かはどうかは関係ない】【それは問題じゃない】と言い放つのも裁判特有の感覚?な感じで妙に心に残った。

○気になったところ
カメラの撮り方も良かった。特にダニエルくんが証言しているときダニエルくんだけを映して、カメラを傾けて検事と弁護士どっちが喋ってるのかわかる演出良かった。
どこのシーンか忘れたけど、裁判が始めようってときに裁判長に耳打ちが入り一度部屋から出て、カメラがが追うも出てこない…となりつつもう一度入り口を映す2度見?みたいなカメラワークなんか良かった。

犬に吐かせるシーン、動物愛護団体に怒られないかとヒヤヒヤする。さすがに本当にしてないと思うけど。


こういう裁判系のニュース見るたびに思い出しそう。こういうのはどうしても主観的に捉えがちなのでニュースの情報だけで判断せずにいたい。
さなD

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