馬宮

落下の解剖学の馬宮のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2
メッシくん!!!!!!!(役名:スヌープ)かわいすぎる。
さすがパルムドッグ賞を受賞するだけある。かわいすぎる。
CGドッグでは味わえない生ドッグの演技を堪能しました。
裁判中のシーンもずっとスヌープいてくれないかな?(顔を覆い)
(※ところで、スヌープってスヌープ・ドッグ(ヒップホッパー)から来てるの?)

しかし、ボーダーコリーを盲導犬代わりにすることが比較的尖っているというか、サンドラのいう「障害者であるということで自分の可能性を狭めてほしくない」を体現してる存在のように思う。(ダニエルは全盲というよりロービジョン(弱視)なのだろう)

ボーダーコリーが盲導犬に向いていないのは、ひとえにその【賢さ】にある。【賢すぎる】から、ラブラドールやゴールデンなどの穏やかな気性の大型犬と比べ、より知性的で飼い主を推し量る。つまり飼い主(使用者)の言うことを聞くかどうかをかなり自分で判断し、
スヌープは完璧に……とはいわないが、ダニエルとの間には確かに絆があるし、彼が弱視というハンディを抱えながら立派に面倒を見ていることが何を言わずとも理解できる。
すばらしい……すばらしい犬映画だ……。

あとセクシー弁護士のことは見終わってから知ったんですが、セクシー弁護士以上の納得がなかった。
hot lawyer.....


~犬談義とりあえずここまで。雰囲気ネタバレがある。多分~


法廷とは個人を丸裸にして解剖する場であり、そこに配慮はなく、ただ黒か白かを判断するだけの場、という……。
ひとたび曝け出されてしまった中身は無かったことにすることができない。
しかしフランスの裁判制度ってマジでこんなライムバトルみたいなの? ほぼフリースタイルラップバトルじゃん(?)


この映画、徹底的にその人物が考えていること、心の中の本当の気持ちは解らないように書かれていると感じた。
受け取り手の想像に委ねられているという部分は劇中の法廷の場と重なる上に、裁判の傍聴客の、ある種エンタメのようにその場を消費するようなまなざしが鑑賞すると被り、もやっと嫌な気持ちにもなった。

ダニエルが証言していることが全部本当なのかどうかわからないし、嘘をついているなら、じゃあ、再現検証しているとき、玄関先でわざわざテープを撫でる彼の手をクローズアップした意図は何だったか? となるし……。

「真実かどうかわからないときは、自分の心でどちらかを決めるしかない」

うーん、いい言葉だ。
ダニエルに投げかけられた言葉は鑑賞している私たちにまで波及する。
実際殺したのか? 殺していないのか? 動機は本当にそうなのか? 違うのか?
この作品でも答えが今明確に用意されていない以上、どちらであるか決めるのは【自分の心】でしかない。
(風の噂には、真相みたいなのは将来的な構想としてあるらしいですね。ひぐらしかな?)


私個人は怨恨殺人にしては無理がありすぎる要素しかないと思っている
(※そもそも手すりでもみ合ってやりあったならそこになにかしらの擦り痕が残るだろうし、それらを検察が根拠として持ち出してこない時点でそれらが見つからなかったのではないか。現代科学がそれが解らないほど貧弱だとは思えないが、フランスの片田舎だからそこまでできないのだと言われたらフン……になってしまうじゃん?)からこの映画の結果にほっとしたし、同時にこれからの二人と一匹がどう変わっていってしまうのかという不安はある。

「お前はモンスター」と言われ、ダニエルにも「ママは怖い」と言われ、関係性としては今まで通りすっきりとした親子関係に戻ることはできない……。

「裁判に勝ったら何かがある(得られる)と思っていた。実際は何もなかった。裁判に勝って【なんでもない状態】に戻っただけ」というサンドラの言葉。痛いほど染みた。
そう。何もない……。性的嗜好までアウティングされ、夫婦間のやりとりの一部だけを故意に切り取られ、創作物と勝手に関連付けられ……そこまでしてようやく【何もしていない】という結果が出されただけ。
虚しいね……。

ほんとうのサンドラがどこにいるのか、何を思っているのか、結局わからないままだったな。
彼女がドイツ人だなんて言われないとわからないし、彼女の母語はついぞ一度も発されないままだったし。


誰が真実を述べ、どう思考しているか全くわからないこの映画において、ただひとり一貫して忠実で、曇りなく、真っ直ぐに自分の物差しだけでヒトを判断するスヌープが、ラストシーンで真っ暗な中、ひとり歩いてきてはサンドラの寝ているベッドに飛び乗って丸くなる。

疲労と不安でいっぱいの中、かたわらに歩いてきた犬がそっと寄り添って丸くなって眠る時のよろこび。かわいくて愛しくて、だからこそ私はこの映画の後味を悪いものだとは全く思わんなかったし、歪になってしまった親子関係もいつかそっと慰められる時が来るのではないか? と感じた。

良質犬映画でした(結論)


*余談
メッシくんの瀕死のふり演技が迫真で、何しろあの犬白目まで剥いてるからスゲーなと思った。
だけど、塩水持ってくるベルジェの方に耳がピクッて向いたのがめちゃんこかわいかったな、と思いました。そこは演技しきれなかったんだね、かわいいねえ。
馬宮

馬宮