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落下の解剖学のmoyashiloverのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

裁判のせいで夫の死因が、自殺か他殺かどっちかしかないかのように思わせる
可能性があるか無いかで言えば、犬が落としたボールに滑って転んだ説もシンプルに転んで落ちた説もあるはずなのに、サンドラの無実を証明するために客観的に一番ありえそうな死因を突き止めるしかなくなる
司法制度は、隔離されるべき加害性のある人間が存在するかどうか、またいたとしてどのくらい罰せられるべきか、という点に固執してしまう
人間社会で生きていく上ではしょうがないことだけど、サンドラやダニエルにとっては夫・父が死んだという事実に変わりはないからせめて本当の死因を突き止めるためにこの労力を使いたかっただろうなと思う

自分が思っていた裁判とは全然違った
事実に基づき全てを白黒はっきりさせるための制度だと思っていたけど、全て弁護士のナラティブで進んでいくのを見るのは斬新だった
証拠や証人が少ない現実世界ではこのやり方の方が現実的なんだろうけど
こういうシチュエーションに絶対直面したく無いなと思った

個人的にはダニエルが死因を証明するための重要な供述をすることになったのが一番惨かった、自分を世界で一番愛してくれているはずの親が自分を諦めて死んでしまったという事実に気づきながらも、それを大人たちの前で言葉にして伝えなければいけないのはあまりにも惨すぎる
裁判を通して知らないほうがよかった父母の関係や問題の全てについて、母VS母を殺人者に仕立て上げる側(原告弁護人?)の目線で語られるダニエルの心境は酷いものだったと思う
フィクションだと分かっていても辛い

映像に関しては犬目線のシーンが多かったり足音がたくさん流れて、何かしら死因や捜査に関わるんだろうなと教えてくれる
もしかしたら死因に直接関わっているのかもとも思ったけど結局それは最後まで可能性として残っている
正直もっと犬が重要な役割を持つんだろうなと思ってしまっただけにちょっと残念ではある

映画全体を通じて証言や証拠を裁判と共に、裁判官たちが聞くのと同じように見る構図になっている
どんどん出てくる証拠や証言で映画を見てる側は考察が変わっていく
裁判の結果をどきどきしながら見ていたけど、結果が出てからも安心感とかではなく虚無感だけが残った、あの時のサンドラの感情がすごくよくわかった

ただ疲れる、真剣に見ると本当に疲れる
映画を見たという感覚より50ページの研究論文を読んだ後の感覚に近い
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