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落下の解剖学のatomaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.7
これは殺人か、それとも自殺なのか?
山荘に住む3人家族の息子・ダニエルが夫・サミュエルが死んでいるのを発見するオープニングシーンから、息をつく暇もない2時間半のサスペンス。カンヌでパルム・ドール、アカデミー賞でも脚本賞受賞のほか5部門にノミネートされるなど世評も高い。

基本は、サミュエルの死の真相をめぐる捜査・裁判を中心とする法廷劇だが、比較的自由に回想が挿入されつつ(あの落下の映像などテクニカルにはズルだと思う)、次々に新たな事実が明らかにされる。
ダニエルの目の障害(完全失明ではなく多分弱視)とそれ故の証言の混乱、妻・サンドラのバイセクシャル性と性遍歴、サミュエルが抱えていた精神的問題のサンドラによる才能の「搾取」。

何より後半部、隠し撮りされたテープが法廷で流される(息子の前で!)シーンは、この映画のハイライトだ。
家事や息子ダニエルの世話(この映画では家事労働を担うのは教師であるサミュエルの方)、ダニエルの失明の責任、作家としてのサンドラの成功と取り残されていくサミュエルの焦り。夫婦の間に隠されていた確執が白日の下にさらされる。(主演ザンドラ・ヒュラーの演技は圧巻で、ノミネートされまくったのがよくわかる。5月公開の『関心領域』も楽しみ)

最終的にサンドラは無罪を勝ち取るのだが、この結果はダニエルの「選択」による部分が大きく、事件の真相自体はあくまで「藪の中」という描き方になっている。そのことが、サンドラとダニエル(とワンちゃん)がふたたび一つ屋根の下に暮らしだすラストまで緊張感を持続させる力になっている。

気になった点もあって、
事故の可能性が早々に除外されるのは?
フランスの法廷ではあんなに自由な発言が許されるの?
監視員(マージ)があのような誘導を行うことは許されるの?
などは詳しい人に聞いてみたい。

あと日本語字幕の問題として、本作の主人公は終始、英語とフランス語を行き来しながら会話をするので、例えば英語の方には字幕に〈〉をつけるとかして欲しかった(一部シーンではやってるんだけど)。(24/4/18)
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