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枯れ葉のhamaのネタバレレビュー・内容・結末

枯れ葉(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

特別に大きな事件があるわけでもなく、世の中の流れをそのままそっと掬ったような映画であるが、だからこそとてもドラマチックで感動的な作品になっていて、心に響くものがあった。というか、落ち込む主人公のそばに賢い犬がいてくれる映画を好きにならないはずがない。

映画の途中、アンサが聞くラジオはロシア・ウクライナ戦争の凄惨さを伝える。アンサはそのニュースに耐えられず、いつも途中で局を変える。自分自身が、世界のどこかで行われている非人道的行為を許さないことと、それを考え続けること自体の難しさのジレンマみたいなものが捉えられていて、励まされる思いになった。

単調な労働の中で人間性が煌めく瞬間の描き方も相変わらず良かった。アンサが仕事を解雇になる理由は廃棄になる食品をパクってるというもので、資本主義における正しさ(売り物に手を出すべきではないという立場)と人道的な正しさ(食べられるものを捨てるのは忍びないし、困った人は助けたいという立場)のジレンマの中で、人間がどういうスタンスをとって生きていくべきかが模索されているように感じる。それがどちらの立場が正しいかを決めるディベートのような形を取らず、その問題の先を歩むような形で生き方を問う感覚が誠実だなと思う。説教ではなく、実践を通して問いを問う感じが、この監督の作品にはある。

特にこの映画のラストショットがすごく好きで、これは人生で観た映画の中でも指おりだった。アンサと怪我人と犬と、歩き方やそのスピード、頭の中は異なれど、同じ方向を向いて進んでいく姿がすごく感動的で、一個一個の事象を取り出すとありふれた風景が、総合された途端に奇跡的なもののように思える感覚が捉えられていた。
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