シズヲ

枯れ葉のシズヲのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.0
アキ・カウリスマキ監督、引退撤回からまさかの電撃復活!6年越しの新作であるが、いざ蓋を開けてみれば全く以ていつも通りの作風である。実家のような安心感がある、というかカウリスマキはそれでいいとさえ思ってしまう。下層階級の中年男女二人の素朴な恋愛模様という題材からして『パラダイスの夕暮れ』と同じ趣があるけど、実際本作は“労働者三部作”に連なる作品みたい。ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』などカウリスマキの交友や趣味が伺える引用が見受けられてしみじみしてしまう。

あらすじ自体は極めて単純なラブストーリーだけど、そういった内容を“ロウワーな人々への穏やかな眼差し”と接続する辺りに監督の変わらぬ持ち味を感じる。カラオケバーで言葉無く視線を交わし合う主役二人の姿など、淡々と抑制された演出の中で登場人物たちの交流を描いているのがやはり味わい深い。あとワンコが可愛い。カウリスマキの映画では世間と登場人物の関係性を示すように度々ニュースが流れているけど、本作ではウクライナ紛争の報道が幾度となく登場するので時勢を感じられて印象深い。

登場人物達が生きる下町の情景を切り取った映像の数々は変わらず魅力的だし、夕食のシーンなどを始めとする端正な画面構成も小津的で好き。要所要所で大胆に楽曲が流れる演出も最早お馴染みだけど、やはり登場人物の心情を鮮明に代弁するかのようで印象的。予告でも使われた“マウステテュトット”のデュエットが良い。そして淡々とした空気の中に差し込まれる飾らないユーモアも何だか微笑ましい。カラオケ王もそうだけど、適当に読み上げた記事が「修士 恋人の肉を……」だった下りで笑った。

主役二人は幾度となく不運や擦れ違いに直面しながら、それでも互いへの素朴な愛情へと帰結していく。酒の一件で喧嘩別れしたあと黙々と断酒に臨むホラッパ、粛々と見舞いへと通い続けるアンサなど、言葉少ない二人の所作が妙に愛おしい。その人間味と直向きさからは妙な愛嬌が滲み出ている。意識回復直後にサラッと言及される事実上のプロポーズがとても好き。そして二人&一匹で並んで歩いていくラスト、あのキュートなウインクも相俟って不思議な満足感に満ち溢れている。下層階級の人間が掴むささやかな幸福の余韻、幾度も語られているのに味わいがある。
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