このレビューはネタバレを含みます
廃棄商品を勝手にあげてはもっていったことがバレて職を無くす女性。
タバコをやたら吸って、紅茶にも酒を入れてしまうほどのアル中の男性。
互いに独身で、もうそこまで若くはない。
そんな2人が些細なきっかけで出会って惹かれ合う。
名前は教えず、電話番号だけ。
家で夕飯を食べても、激しく触れ合うわけでもない。
特に印象的だったのは、映画館の前で頬にキスをしようとして手こずったシーンだ。あれがこの2人の関係性を表しているように思えてしまって、私は頬が緩んだ。
そうやって近くなったり、遠くなったりを繰り返す、さざなみような時間。それを至ってコンパクトな会話で進む都合の良さが、ちょっとした眼球の向きや口角の細かい動きなどを目立たせる。そして、その表情の機微に観ているものは感情を掬い上げにいく。
まさに退院した彼を迎えた彼女のウインクはこの映画のハイライトだと思った。
特にジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』を2人を観るシーンは笑えたし、犬が可愛すぎました。
差し込まれるウクライナの戦争を伝えるラジオによって、この時間の尊さの意味と現実の共存は、今一度考えるべきだろう。犬の名前がチャップリンであるように。