ノラネコの呑んで観るシネマ

枯れ葉のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.5
アル中男と失業女、いい感じにくたびれた中年男女のラブストーリー。
この二人むっちゃ間の悪い人たちで、お互い気になるくせにすれ違いを繰り返す。
カウリスマキらしく知的にユーモラスだが、ラジオからは隣国ロシアによるウクライナ侵略のニュースがひっきりなしに流れ、陰鬱なムードを作り出し、カラオケからはじまって、多種多様な歌が登場人物の心象をダイレクトに伝えてくる。
全体が男女の恋模様を歌った、昭和な歌謡曲のような作り。
二人のバックグラウンドは描かれないが、間違いなく現在の話なのに、全体のムードはちょっとレトロ。
彼らは未来へと進む世間の時間から置いて行かれて、経済的には成功者とは言えない人生を送っている。
だけど「枯れ葉」が見方を変えれば「紅葉」であるように、世知辛い世の中で人生ピークを過ぎたとしても、輝くことは出来る。
ラストに明かされる犬の名前が、偉大な喜劇王に対する大いなるオマージュにして、この作品が指向する先を示す。
上映時間も80分と短く、構成要素も全てがミニマム。
どちらかというと初期作品に近い印象を残す、巨匠円熟の小品だ。