紙に書いた電話番号のメモを失くしてすれ違う、という彼此20年は見ていない恋の始まりを目撃する。その後待ち伏せを繰り返し何とか再会して、今度は住所を書いたカードを貰いそれを大事そうに財布に入れて、胸ポケットにしまってさらにジッパーをきゅって閉じるとこ、可愛い過ぎてときめきトゥナイトしちゃったよ。ぶっきらぼうだけど何の駆け引きもない大人の純然たる恋が、眩しくて微笑ましくて敵わない。何に縋ればいいのかわからないくらい混沌としたこの世界で、人間をこんなに愛おしい存在に描いてくれてありがとう。人が人を信じる気持ちを諦めないでいてくれてありがとう。カウリスマキの映画を観ると、澄んだ空気が肺一杯に送り込まれて深呼吸しているような気持ちになる。まだこんなに透明な空気が残っていたんだな。
アイスブルーのコートの内側に赤いシャツのコーディネート、アンサの人柄を表してるみたいで素敵だった。私も彼女みたいに弱きものを助け、理不尽な事にはちゃんと怒り、お家デートの為にうきうき食器を新調し、でもその場の雰囲気には流されずに、自分の意思を真っ直ぐ伝えられる人になりたいな。あのポーカーフェイスから繰り出される悩殺ウィンクは、どんなアイドルよりも胸にずきゅんと刺さった。そして今回も可愛いワンコが登場してくれてありがたい。何処であんなカウリスマキ調の子を見つけてくるのか不思議なくらい溶け込んでいるし、画面に動物が居てくれるだけで映画の基礎体温が上がって、物語がちょっと強くなるような気がしている。
