メッチ

枯れ葉のメッチのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.7
合いそうで合わなくて、会えそうで会えない。監督からの温かさを感じる、現代のラブコメ。

体感100分以上のものをみていたかのような感覚でしたが、上映時間が81分しかないのは驚きでした。お話は淡々と進んでいくだけなのですが、なぜか画面に釘付けになるような「空気」みたいなものがあったため、時間の感覚が良い意味でおかしくなりました。
それは、お互い名前も知らないような間柄から惹かれ合っている恋愛描写も良かったからというのもありますし、なによりホラッパの人と一緒にいることが苦手だから普段から1人でいるという価値観からは、現代人っぽさを感じられて他人事には思えない。それらの要素が上手く噛み合っていたからなのかもしれません。

しかし、登場人物たちはまるで棒読みをしているようで、セリフに覇気がないような気がしました。似たものをあげるのであれば、濱口竜介監督作の『ドライブ・マイ・カー』のセリフの読み合わせのシーンぐらい。俳優陣たちは、監督から演じてはいけないとでもいわれたのでしょうかね?
そのためか、本作をみる前は悲壮感漂う作品かと思ってみたら、作品全体的にギャグ満載だったみたいで、そのギャップにやられました。主人公のアンサとホラッパの2人の恋愛模様も良く、ギャグを織り交ぜつつも同情してしまうようなところが良かった。

また、本作を制作されたアキ・カウリスマキ監督は、小津安二郎監督にとても影響を受けているよう。YouTubeの動画上でも、いま亡き小津安二郎監督へメッセージを送るものがあるほど。
それから感じ取れたのは、小津安二郎監督のおかげで映画監督として成功している一方、映画監督として苦しんでいるようでした。それだけ、映画監督に課せられた宿命であり、色んな物作りの職業に言えることだと思います。

ただ、引退を撤回してまで制作された本作には、ロシアとウクライナの戦況がラジオから流れてくるシーンが所々あります。そこからは、「映画監督として苦しんでいたけれども、私以上に苦しんでいる人々に出来ることは映画を作ること。」というような、監督からの温かい気持ちがあったように感じました。
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