シネマの流星

枯れ葉のシネマの流星のレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
5.0
賞味期限が切れた商品、賞味期限が切れた犬、賞味期限が切れた男。女はそれを捨てない。枯れ葉を拾い集めて温かい布団や絨毯を作るように。誰かにとって価値が終わったものは新しい価値が宿る瞬間。終わりとは、すべて何かの始まりである。

この映画を料理に例えるなら至高のサラダ。

メインディッシュは材料や工程が多くて難しいと思われがちだが、雑に作っても美味しくなる。一方で美味しい前菜ほど丁寧さと繊細さが求められる。『枯れ葉』は普通なら捨てる何気ない労働や日常シーンを丁寧に描くことで観客を映画の世界に誘い、フィクションとして大胆に攻める部分を補強している。

特徴的な演出はイヤホンで音楽を聴いてる人がいないこと。その代わり、心のイヤホンで音楽を聴くシーンがある。それを観ている我々は、ラジオのニュースも人の会話も徐々に音楽に醸成されていく。

男と女は食事のときも、語らいのときも、別れのときも距離がある。空白がある。余白がある。映画を観ているときだけ、ふたりは密着している。

映画という同じ光と闇を共有することで、ふたつの心はひとつになる。
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