Omizu

関心領域のOmizuのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.9
【第96回アカデミー賞 作品賞他全5部門ノミネート】
『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』で知られる鬼才ジョナサン・グレイザー監督作品。カンヌ映画祭コンペに出品され見事グランプリを受賞した。アカデミー賞では作品賞をはじめ5部門にノミネートされた。

『サウルの息子』を思い出す戦慄のナチス映画だった。守られた側であるナチスの収容所の所長家族の日常を描きつつ、壁一枚隔てた向こう側には強制収容所がそびえる。日常の中に混じり合う銃声や悲鳴…あくまでそれらは背景にあることでより恐ろしさが増している。

所長の家族は極めて平凡で恵まれた生活を送っている。家庭内の話や子どもたちの無邪気な歓声、その裏には収容所の過酷な生活が垣間見える。

グレイザーらしく静謐で淡々とそれだけを描いている。一見幸せな家庭、そしてその背後にあるもの。人は関心があるものしか目に入ることはない。その残酷さが際立っていた。

果実を拾うユダヤ人少女、終盤の急な現代描写、これ見よがしでない強烈で不思議な描写が興味深い。

静かでありながらも、その背後には恐ろしい収容所がある。その構造が非常に面白い。

撮影も素晴らしく、極めて明るい調子で撮っている。それが逆に怖いという効果を生み出している。

人間というものの視野の狭さを実感する一本だった。もはや巨匠と言ってもいい洗練され研ぎ澄まされた演出が素晴らしい。
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