いけ

関心領域のいけのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アカデミー賞直前の特別先行上映で鑑賞。

固有名詞が多く物語の大枠しか掴めなかった印象だけど、とにかく怖くて心地が悪い。
エンドロールの音楽は鳥肌が立つような不気味さ。

印象的だったのは、妻がアウシュヴィッツの横に立つ我が家から離れようとしないことだった。
確かに素敵な家とプールがある庭、温室もある豊かな家庭菜園は魅力的だけど、一日中銃声や叫び声が聞こえ、夜には焼却炉の煙が不気味にモクモクと上がる環境が子育てに適切とは全く思えない。
でも、それは戦争が終わった今の感覚なんだろうな。
今じゃ不気味で怖すぎる状況も当時では当たり前だった、というか見て見ぬふり、聞こえぬふりをしていたのだろう。

庭の花が切り取られたショットがたくさんあったけど、それらの花を育てるのにおそらく焼却炉の灰が使われていて、その花の蜜を蜜蜂が集めて、その集められた蜜を人間が蜂蜜として収穫するのがとても象徴的だと思った。

ラストで主人公が嗚咽しながら階段を降り、暗闇の廊下をじっと見つめるシーンがあるけど、それは画面越しに自分が見つめられているようだった。
その後のシーンは現代のアウシュヴィッツのシーンだったし、おそらくその解釈で合っていると思う。

そう考えると、今の時代も理不尽な暴力や搾取が蔓延してるのに、それを見て見ぬふりして、目先の生活の豊かさを享受してるんじゃないか?
数十年後に今の自分の生活を振り返ったら、本作の中で妻に感じた違和感と同じような感覚を覚えるんじゃないか?
今だってちゃんと耳を傾ければ、どこかで鳴っている銃声や誰かの悲鳴がちゃんと聞こえるんじゃないか?
ちゃんと視線を向ければ不気味に立ち上る煙に気付けるんじゃないだろうか?
そんなことを思わせる映画だった。

ヘンゼルとグレーテルの朗読に合わせて映されるリンゴを隠す少女のネガの映像がどんな意味だったのか、ゆっくり考えたいと思う。
いけ

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