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コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って 4Kレストア版のあのレビュー・感想・評価

5.0
藁を配り、ビールを盗み、そして恋をする。生活と結びついた乗り物は、まるで息をしているように動くのが面白いです。この感情を持った物の描写は、「少年、機関車に乗る」から一貫しています。この「生き物」が、夜空を染める弾薬の横を平然と動いてる様が、まさにリアルタイムのタジキスタンだったんだろうと思うと、93年、ドゥシャンベ、そしてフドイナザーロフにしか撮れない、正真正銘のオンリーワン映画ここにありという感じがします。

度を超した博打も、それが原因でミラが家を飛び出したことも、そして宙吊りで扉を開け放たれた危なっかしいロープウェイ上での恋も、戒厳令の敷かれた夜の街を走り回ることも、全ての突飛で命知らずな人々の行動が、銃弾掠める街中でひもじくも逞しく脈打つドゥシャンベの営みの血となり肉となっている。このストーリーを飛び出して最早生き物のようになってしまった映画には、ある種「正解」と言うしかないように思います。

また、ロープウェイから見下ろす斜面や、駆け降りる階段のローアングルからは、タジキスタンに根を張った監督の息遣いが聞こえてくるようでよかったです。タジキスタンは、余り馴染みのない国ではありますが、この広いようで狭いような気もする涼しげな大地を毎日見ていると、きっと何があろうとも故郷を捨てる気にはならないんだろうと確信が持てます。ラストの「ドゥシャンベ 気温14〜17度 本日は戦闘なし」には、これ以上言うことがない等身大のタジキスタンが見えてきて、最高のカタルシスを感じました。
あ